連載PRI Open Campus 4. 「エビデンスよりインプレッション」の時代にいます。そうした観点から、行政データの利活用も含めた、データインフラの整備が重要ではないかと考えています。そのような基盤が整備されていなければ、研究者の方々に行政の中に入ってきていただいても、「何をやってもらうのか?」ということになりかねません。安田)データは 1 つの「フック」になりそうですね。一方、そもそも霞ヶ関に来ようとしている時点で、研究や分析だけではなく、政策や行政のアップグレードにも関心があるはずです。霞ヶ関にいる間に、省内だけでなく省外のスタッフも巻き込んで、何らかの知的貢献ができるということになれば、やりがいを感じて優秀な研究者がもっと来たがるのではないでしょうか。ただ、知的貢献をしようにも、1 人でできることには限界があるので、彼らと省内・省外の行政官や他の研究者をつなぐようなサポートが必要です。例えば、アカデミアから研究者を招いて、定期的なセミナーを開催してもらい、そこには他省庁の職員や他の研究者も自由に参加できるようにする。そうすると、参加者同士がお互いに交流するようになるので、人的ネットワークが構築されます。そういったプラットフォームを作るのは、財務総研のような行政内部の研究機関が適任ではないかと思います。宮本)安田さんがおっしゃったセミナーは、大学で言えば「講義」に近いイメージですよね。私はそれに加えて、「ゼミ」のような小規模でインタラクティブな場を設けると効果的だと思います。大人数のセミナー形式だと、議論の時間が限られてしまいますし、参加者もざっくばらんには話しづらい。だからこそ、一方的な説明は最小限にとどめて、ディスカッションを中心とした場を定期的に開催しても面白いのではないかと思います。片野)ここまでは、外部の研究者をいかに巻き込むか、という話であったかと思います。他方で、それと同じくらい、行政内部の職員の経済学の専門性を培うこと、特に関連する修士号・博士号を取得できるようにサポートするという視点も大事だと思います。そのような観点から、財政経済理論研修のような取組は、改めて意義深いように感じます。宮本)おっしゃるとおりです。国際機関や外国の政府には、博士号を取得しているスタッフがたくさんいて、彼らと交渉や議論をする際に求められる専門的な知識のレベルも、どんどん高まっているように感じます。安田)行政官が博士号を取得すると、霞ヶ関を辞めて大学に移ってしまう、というケースがおそらく出てくるのですが、そういった流出を許容する寛容さも必要でしょうね。行政官になるか、研究者になるか、という選択で迷っている学生は大勢いるので、そのような学生に行政官を経験してから研究者になるというキャリアパスを示せれば、霞ヶ関が就職先として魅力的に映るからです。行政サイドにとっても、行政経験を有し行政内部を良く理解している研究者は、まさに「行政とアカデミアの協働」に向けて「橋渡し」役を担う貴重な存在と言えるのではないでしょうか。大西)先程の図 2 で示した C も S も A も、どのようなエビデンスやファクトを探究するか、という話であり、エビデンスやファクトをベースに、ロジックを組み立てて政策を作っていくべき、という認識は、行政もアカデミアも共有していると思います。他方で、そもそも「エビデンス?何それ?」というような、エビデンスよりもインプレッションを重視する人たちもいて、最近はむしろそちらの勢いが増しているという危機感を抱いているのですが、そのような時代に行政とアカデミアはどのように協働できるでしょうか?地道にエビデンスを積み重ねることはもちろん大事だと思PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 48ファイナンス 2025 Oct. 39座談会の様子
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