ファイナンス 2025年10月号 No.719
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連載PRI Open Campus 2.財務総研の活動紹介3.行政とアカデミアの協働に向けてしたコンサルティングサービスや、宮本さんにもご登壇いただいた「ナイトスクール」というエデュケーションサービスを提供してきました。大西)まずは、財務総研の取組を紹介させていただきたいと思います。財務総研の活動は図 1 のとおりで、「新たな情報の探索・整理と発信」、「財務省職員にとっての学習機会の提供」、「次世代にとって有用な『Asset(資産)』の構築」という 3 つの軸で構成されています。特に最近は、これら 3 つの軸が重なる領域に位置する「行政データを用いた研究」に力を入れており、輸出入申告データや税務データ(税務大学校)を活用した共同研究などの取組を進めています*1。安田)行政データの整備・利活用はまさに「公共財」で、非常に重要な取組だと思います。北欧諸国のようなデータ公開度の高い国では、スウェーデン人が自ら分析をせずとも、世界中の優秀な研究者が集まってきて、スウェーデンのデータを使って分析をしてくれる、というような状況が生じています。言わば、エコノミストやコンサルタントを無料で雇っているようなものです。行政コストの節約という観点からも、国内の研究者のキャパシティの観点からも、日本においてもこういった取組は積極的に進めるべきだと思います。片野)「財務省職員にとっての学習機会の提供」の中にある財政経済理論研修では、かつて安田先生にもミクロ経済学の講義を担当していただきました。当該研修は、財務省職員が従来の職務から離れ、3 か月間にわたって集中的に経済学を学ぶ機会を提供するものですが、このような取組は霞ヶ関の中でもかなり珍しいかと思われます*2。安田)財政経済理論研修には私も携わっていたので、今も続いていることはやはり嬉しいですね。民間企業でも行政機関でも組織内のトレーニングや人的投資がどんどん減ってきている中、国全体の「お手本」となるべき霞ヶ関で、こういった研修にしっかりと時間やコストを割いている点は評価されるべきだとも思います。私が担当したのは「上級ミクロ経済学」という大学院レベルのミクロ経済学の講義でした。経済学は学部と大学院で使われる専門用語や数学のツールがガラッと変わるので、財務省の皆さんが欧米の経済学大学院に留学しても面食らわないように、「橋渡し」をするという狙いがありました。受講生の皆さんは講義中は非常に寡黙なのですが(笑)、講義が終わった後にこっそりと核心を突く質問をしたり、実際に経済学の博士課程に留学する方が何人も出てきたりしたことは、今でも強く印象に残っています。大西)財政経済理論研修で安田先生が使用された講義資料は、まだ先生の HP に掲載していただいていますが、実は経済学を学ぶ学生の間では「バイブル」になっていて、私も大学院に進学するときに、「安田先生の資料で予習すると良い」と聞き、勉強させていただきました。安田)それは全く知りませんでした!本来なら掲載前に財務総研の許可を得なければいけなかったのかもしれませんが、「公共財」を供給しているということで大目に見てください(笑)。大西)本日のテーマは、「行政とアカデミアの協働にPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 48*1) 行政データを用いた研究の詳細については、『ファイナンス』(2023 年 3 月号・7 月号)の「PRI Open Campus」を参照。*2) 財政経済理論研修の詳細については、『ファイナンス』(2023 年 1 月号)の「PRI Open Campus」を参照。ファイナンス 2025 Oct. 37図 1 財務総研の活動研究会国際コンファレンスフィナンシャル・レビューの刊行海外機関との研究交流統計の作成「財政史」の刊行途上国への知的支援ランチミーティング行政データを用いた研究財政経済理論研修等トップセミナー財務省職員にとっての学習機会の提供新たな情報の探索・整理と発信次世代にとって有用な「Asset(資産)」の構築

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