ファイナンス 2025年10月号 No.719
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連載経済トレンド 2005 060(人)21(年)2019181716141513121110090807コラム 経済トレンド 136オーバーツーリズムの課題と対策観光産業を持続可能にするために(図表 10)バルセロナにおける観光フラット(民泊)数の推移(件)10,0008,0006,0004,0002,0000(図表 13)DMO KYOTO の取組み事例Q. 観光客の多い現状が、あなたの身の回りにもたらす悪い影響について、あてはまるものを教えてください(1位、2位、3位の理由を1つずつ回答)観光客のマナー違反(ポイ捨て、食べ歩き、道路の危険な横断等)が迷惑だバスや電車などの公共交通や、道路が混雑して使いづらくなった観光地・施設やその周辺が混雑しており、住民が使いづらい町がごみで汚れる、市民向けのサービスが後回しになるなど、公共サービスが劣化したN=5,5801 位2 位1. 受入環境の整備・増強(交通手段や観光インフラの充実)観光地(注 1)図表 8はEYJAPANによる調査。一定の条件で観光客の増加を認識すると考えられる10 地域を抽出し実施。本稿では25ある選択肢のうち、回答割合が高い上位 5 項目を抜粋。(出所)EY JAPAN「日本経済をけん引するツーリズム産業への成長に向けて」、観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」、トラベルボイス株式会社「オーバーツーリズム 2025」、阿部大輔「「観光都市」から「観光とともに生きる都市」へ」「観光文化 265 号」公益財団法人日本交通公社(出所)観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業「先駆モデル地域」における取組み事例集(令和 7 年 7 月 25 日第一版)」、観光庁 HP、公益社団法人京都市観光協会(DMOKYOTO)(https://www.kyokanko.or.jp/)、LINK!LINK!LINK!(https://link.kyoto.travel/)10.9%9.0%8.1%7.3%7.0%2003004005006007004. マナー違反行為の防止・抑制(旅マエ・旅ナカの意識啓発や対策強化)観光地・暮らしと観光をつなぐポータルサイト「LINK!LINK!LINK!」を開設。観光の意義・効果、観光課題とその対策や、観光事業者が主体的に提供する市民限定サービスの情報等を市民に分かりやすく伝える。・特典提供事業者数:50 社(目標)⇒63 社(令和 7 年 3 月 18 日時点)・観光で評価されることを誇りに思う市民の割合:64.9% 以上(令和 5 年)⇒65.8%(令和 6 年)・観光モラル宣言特設サイトを作成し、京都観光モラルの理念の周知を図る。観光客に対して事業者による特典・優待情報等を提供することにより、観光客による京都観光モラルの理解と実践を促進。・観光モラル宣言をする観光客数:1,199 名・宣言者向けに特典提供する事業者数:110 件・特典の利用実績:91 件その他3 位1002. 需要の適切な管理(入域管理や需要に応じた運賃設定等)3. 需要の分散・平準化(空いている日時・場所への誘導・分散化)観光地・世界的な DMO:観光による受益が広く地域にいきわたり、地域全体の活性化を図っていること、誘客 / 観光消費戦略が持続的に策定される組織体であること、などの方針に沿った 6 つの項目について、すべて高水準で満たしているDMO・先駆的 DMO:上記 6 項目について、すべて(=A)もしくはいずれか(=B)の項目で一定の水準を満たしているDMO2 度の規制緩和【具体例】1. 歩行空間の拡大や交通結節点の整備等(大阪)2. 入域規制やガイド同伴の義務化(沖縄・西表島等)3. 混雑状況を考慮した空いている観光ルート等の提案観光地による誘導(箱根・秩父)4. 私有地や文化財等への防犯カメラ等の設置支援※実施期間:令和 6 年 10 月~令和 7 年 2 月新規許可凍結立地規制宿泊施設【観光効果の見える化・観光への市民共感(主に対地域住民)】○ 情報を提供し、観光で評価されることを誇りに思う市民の割合が増加交通事業者【観光客による「京都観光モラル」宣言(主に対観光客・事業者)】○ 観光モラル宣言の取組みへの参加者が増加し、モラルの理念を周知地域住民飲食店世界的な DMO(0 法人)先駆的 DMO(A タイプ:3 法人、B タイプ:1 法人)登録 DMO(322 法人(先駆的 DMO選定法人含む))候補 DMO(30 法人)(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。地方公共団体・オーバーツーリズムによる負の影響として、マナー違反のほか、交通網や観光地周辺の混雑、公共サービスの劣化等が挙げられる。自然環境や住民の生活が毀損されると、地域の資源を活用している観光産業も維持できなくなる恐れがある(図表 8)。・観光庁によると、課題への対応として、“受入環境の整備・増強”、“需要の適切な管理”、“需要の分散・平準化”、“マナー違反行為の防止・抑制”の 4 つに分類してまとめられており、国内の各観光地でも取り組みが広がっている(図表 9)。・他方、オーバーツーリズムが一層深刻化する場合には、より踏み込んだ対応が求められ得る。先進的な海外の事例として、スペインのバルセロナでは宿泊施設の急増による地価の高騰等が問題となっているが、民泊の新規許可凍結や、都市計画法に基づく立地規制等で対処している。今後は自治体主導の規制等も視野に入れ、計画的に対応する必要があるだろう(図表 10)。・また、観光から得られた利潤を、地域の資源や住民に還元する好循環を生み出すことも重要な観点である。雇用創出や税収等の経済効果が生じたとしても、観光に携わらない住民はその恩恵を実感していない可能性がある。観光地の魅力は、その土地固有の町並みや日常生活により形成されるため、地域への再投資は必要不可欠な要素である。・観光地域づくり法人(DMO)とは、「地域の稼ぐ力」を引き出すために観光地域のマネジメントを担い、様々な関係者の連携を促す司令塔となる法人であり、地方創生 2.0 でも DMO の取組み等を推進することによりオーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめ持続可能な観光地づくりを進めるとされている(図表 11)。・例えば、京都市観光協会(DMO KYOTO)は、地域全体の活性化等の取組みを高水準で満たす「世界的な DMO」の候補となる「先駆的DMO(A タイプ)」に指定されている。住民や観光客、事業者など、地域の多様な関係者と連携し取組みを進めているモデルケースであり、地方部を含めた全国の登録 DMO や候補 DMO にとっても参考となり得る(図表 12、13)。・オーバーツーリズムの対応含め持続可能な観光地域づくりを進めるうえで、各関係者が納得感を持って取組みを進めることが重要であり、その中核を担う DMO の役割は今後更に高まることが予想される。地域の資源や生活を維持しつつ、観光産業の成長を加速させるために、目先の利益追求では無く、DMO を中心とした「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりに期待したい。観光地域のマネジメントファイナンス 2025 Oct. 27(図表 8)観光地の住民に対するアンケート調査(図表 11)DMO 概念図観光地域づくり法人(DMO)(図表 12)DMO の種類(令和 7 年 6 月 30 日時点国内登録件数)(図表 9)オーバーツーリズム対策の 4 類型

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