ファイナンス 2025年9月号 No.718
78/90

連載PRI Open Campus 74 ファイナンス 2025 Sep.です。パンデミック時には、社会的安全網が十分に整備されていない国でも、迅速な対応が求められました。一方、行政におけるデジタル技術の活用が進んでいた国ほど、給付対象者を特定し、迅速かつ正確に支援を届けられたことが明らかになりました。興味深いのは、アフガニスタンのようにデジタル技術の普及が十分とはいえない国であっても、スマートフォンを通じて非常に貧しい家庭に対して給付金を届ける仕組みが、市民社会の取り組みによって構築された事例です。そのシステムは完全にドキュメント化・統合されているため、不正流用のリスクが極めて低い、優れたシステムとなっています。つまり、ここで私がお伝えしたいのは、GovTech を活用した公共部門の取り組みには、実際に極めて高い成果を上げている事例が存在するということです。また、行政における GovTech の可能性を考えると、それはまさに革命的な変化をもたらすポテンシャルを秘めています。しかし、そのプロセスをどうマネジメントしていくかは非常に複雑です。今回の TFF でもこの点は議論されましたが、我々はすでに分かっていることがある一方で、まだ分かっていないことの方が多いとも感じています。したがって、行政におけるテクノロジーの応用をどう進めるか、また政府が何をするべきで、何をするべきでないのか。このバランスについては、今後も国際的に議論を深めていく必要があります。現時点では、明確な正解があるとは言い難いのが実情だと思います。具体的な事例をご紹介いただき、ありがとうございます。GovTech は非常に有望な取り組みである一方で、その導入や運用にあたっては多くの課題や難しさが伴うことも理解しています。さて近年、グローバリズムに対する懸念や、これまでとは異なる考え方での通商政策を採用する動きが見られていますが、こうした動きは、それぞれの国で財政政策を考える上で、どのような影響を与えるとお考えでしょうか。この問いに対して、私が強調したい点は大きく 2 つあります。第一に、貿易政策に関する不確実性が、世界全体の政策を不確実なものにしており、これにより、財政政策の運営はより難しくなっています。なぜなら、財政赤字や公的債務への圧力につながるからです。今回のTFF で紹介した私の分析では、政策の不確実性が高まると、将来の公的債務が膨らむリスクが高まる傾向があることがわかっています。つまり、将来の債務の「平均的な水準」だけがあがってしまうだけでなく、「最悪の場合にどこまで膨らむのか」という見通しも、より大きくなってしまうのです。これは、財務当局にとって一層困難な状況であることを意味しています。公的債務への圧力に加え、リスクの振れ幅も拡大しているためです。したがって、それに備えて「より大きなバッファー」を確保しておく必要性があることを示唆しています。第二に、貿易政策の手段である関税は、特定の国やセクターに非常に集中的な負担をもたらす可能性があるという点です。こうした場合、対象を絞った適切な財政政策支援が必要となる場合があります。もちろん、これは支出を伴う政策対応です。そのため、安定志向の財政運営の中で、こうした支援を効果的に実施するためには、やはり事前に十分なバッファーを確保しておくことが重要です。ただし、これらの 2 点の間には一部重複があります。例えば、2 つ目で申し上げた関税の影響は、1 点目に述べた政策の不確実性を通じて公的債務のリスクに反映されている可能性もあります。しかし、これらは完全に重なり合っているわけではありません。貿易政策の影響は国やセクターごとに大きく異なっており、各国が直面する課題もそれぞれの状況により違うからです。この場合、対応する財政政策もまた差別化する必要性があります。ここで重要なのは、単に政策の不確実性という一般的な話ではなく、その不確実性の出発点が「貿易政策」であるという点にあります。ざいました。Gaspar 局長、本日は貴重なお話をありがとうご

元のページ  ../index.html#78

このブックを見る