連載PRI Open Campus *2) IMF の FAD によって年 2 回作成される世界の財政状況に関する報告書。(https://www.imf.org/en/publications/FM)ファイナンス 2025 Sep. 73す。同時に、長期的な視点から財政政策を運営することも重要です。その観点からは、「ガバナンスの強化」と「財政の透明性向上」も非常に意味のあることです。なぜなら、日本政府が構造改革に取り組む場合、この 2 つが、改革の内容を社会に理解・納得してもらうために大切だからです。財政政策は同時に構造政策でもあるため、財政政策によって、日本の経済成長のトレンドの展望は強化し得るのです。今後の「Fiscal Monitor*2」でも、まさに「財政政策と成長」や「公共支出」を取り上げる予定です。そして来春の号では、「財政政策と成長」を再び取り上げつつ、税制面に焦点を当てた内容とします。ぜひ注目していただければと思います。ガバナンスの強化、財政の透明性の向上、そして長期的な戦略は不可欠です。この点において、財政政策の枠組みはどのような役割を果たすことができるでしょうか。特に日本の場合、どのような役割が期待できるでしょうか?財政政策において重要なのは、信頼と信用を築くこと、そして経済主体が意思決定を行う際に拠り所となる基盤を提供することです。私が常々強調しているのは、財政ルールや数値目標のような制度的枠組みと、独立財政機関のような組織的な要素を組み合わせることの重要性です。特に独立財政機関は、国ごとに設計や機能が大きく異なります。そして何より重要なのは、導入される制度がその国の政治システムとどれだけ適合しているかということです。率直に申し上げて、私は日本の政治システムを十分に理解しているとは言えません。そのため、日本に特化した具体的な提案を行うことは控えたいと思います。しかし、他国でどのような制度が導入され、どのような条件のもとで機能してきたのかについては、積極的に知見を共有し、意見交換に関わっていきたいと考えています。そして、「日本にとって何が最も適切なのか」は、日本国内で議論され、合意形成を経て決定されるべきものだと考えています。PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 47今回の TFF では 2 日間に渡り、多くのトピックについて議論が交わされました。その中でも特に注目されたトピックの一つが「GovTech」です。AI やロボットなどの新技術が経済、社会のあり方に大きな影響をもたらすと考えられています。GovTech は、こうした技術の進展を活用する比較的新しいコンセプトだと思いますが、政府による公共財の供給や、そのための財源調達、所得の再分配の理想的な姿は、長い目で見てどのように変わっていくと考えておられますか?行政が持つ課題の解決にテクノロジーを活用する事例は既に存在します。代表例のひとつが税務行政におけるテクノロジーの活用です。税務行政において極めて重要なのは、「納税者に関する情報がどれだけ把握できているか」という点です。その意味で、第三者情報の活用は、過去数十年間で税務行政における最大の進展の一つと言えるでしょう。世界中の多くの国で、税務当局が第三者情報に基づいて納税申告書をあらかじめ作成し、それを納税者に送付する仕組みが導入されています。個人納税者は税務当局から事前入力済みの納税申告書を受け取り、確認してその内容に署名するだけで良い場合もありますし、もちろん、内容に修正が必要な場合は、納税者が追加情報を提供することもできます。現在、GovTech の進展は税務当局が利用可能な情報量を大幅に増加させ、それによって税制の設計そのものを見直す余地が生まれています。つまり、税務行政における技術の進展は、税制設計の選択肢を広げているのです。税務行政と法制度を組み合わせることで、「Tax System Approach」と呼ばれる包括的な視点で経済と税を捉えることが可能になります。現在、GovTech はこの包括的なアプローチの重要性を今まで以上に高めており、特に税務行政において、GovTech を体系的に考えるための良い枠組みは既に存在すると感じています。その意味で、税務行政は、比較的 GovTech の進展を実現しやすい分野の一つだと考えています。世界中で多くの成功事例があるもう一つの分野は、給付金などの所得移転を的確にターゲットする仕組み
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