連載PRI Open Campus *1) https://foreignpolicy.com/2024/09/23/imf-fiscal-affairs-global-policy-trilemma-economies/ファイナンス 2025 Sep. 71把握することが非常に重要であるということです。日本の生産年齢人口はすでに 1995 年から減少を始めており、総人口の減少は、2008 年以降に本格化したと記憶しています。この2つのタイミングのずれは、日本の出生率の動き、特に第二次世界大戦後に日本を含む多くの国で起きたベビーブームによって説明できます。日本はこのような人口動態の変化を実際に経験しただけでなく、それを最も早く真剣に分析・議論してきた国でもあります。こうした知見に基づき、TFFに参加した他の国々は多くの学びを得ることができました。人口動態というテーマは、今なお重要であり続けています。2 つ目に挙げたいのは、自然利子率です。自然利子率は、財政指標や政策金利の下限とも関連しています。ここでも日本は、世界に先駆けてこのテーマに直面してきました。1990 年代半ばには、日本の名目金利はゼロ近くにまで低下し、ゼロ金利政策は 1999 年末には日本銀行の公式な政策運営枠組みの一部となりました。私自身が 2001 年に初めて日本を訪れた際には、日本銀行の職員たちと日本銀行の金融政策について意見交換をする機会を得ました。その後も、日本ではこのゼロ金利政策が 25 年以上にわたり継続してきましたが、現在はその局面からの「出口」に差し掛かっています。インフレ率は日本銀行の目標に近づきつつあり、名目・実質金利も 5 年前の極めて低い水準から上昇しつつあります。つまり、このテーマは継続的に議論されてきたものの、議論の焦点は変化してきました。かつては「ゼロ金利下での金融・財政政策の対応」が中心だったのに対し、現在では「ゼロ金利政策から脱却した後の金融政策の方向性」が主たる関心事となっています。インフレが進むと政策金利が上昇し、その結果財務省の資金調達コストが増加するため、インフレは日本銀行が考慮すべき要因です。自然実質金利はこれまで一貫して重要とされてきたテーマですが、その中の重点は大きく変化しているのです。最後に簡単に触れておきたいのが、財政政策における政治の重要性です。政府は、社会保障・防衛などの分野における歳出需要、負担増に対する国民の忌避、公的債務の増大という 3 つの政策圧力に直面しています。政策担当者は、この 3 点に全て同時に対処することは困難だという「財政政策のトリレンマ」に直面しています。「財政政策のトリレンマ」については、私がフォーリンポリシー誌への寄稿で、詳しく説明しています*1。今回の第 10 回 TFF では、多くの参加者が「財政政策のトリレンマ」について言及し、歳出抑制・歳入確保・債務持続可能性確保の相互の強い結びつきを示しました。財政政策の執行には、信頼性や信用力を高めて経済主体の期待をしっかりとアンカーする長期的な視点が欠かせません。また、財政政策と構造政策を連動させ、長期的な成長の見通しを改善させることも必要です。こうした見通しの改善は、財政政策のトリレンマの強い結びつきを緩和する役割を果たすからです。非常に示唆に富んだご指摘です。今お話しいただいた 3 つのテーマは、いずれも日本にとって非常に重要なテーマです。過去 10 年間、Gaspar 局長は TFF に深く関与されてきました。TFF は、アジア太平洋諸国を中心とした地域対話の場としての役割を果たしてきましたが、その中で、日本の地域における立場や役割はどのように変化したとお考えでしょうか?また、今後日本にどのような役割を期待されているかについてもお聞かせください。先ほどお話した 3 つの例からもお分かりいただけるように、日本はアジア諸国のみならず世界に先駆けて、重要な変化を経験してきた国です。そうした日本において、各国の政策担当者が集まり、議論を行うことは、他の国々にとっても大きな学びの機会となっています。数 年 前 に、 私 は マ ー ク・ ラ ヴ ィ ナ 氏 の 著 書「To Stand with the Nations of the World:Japan’s Meiji Restoration in World History」を読みました。その中で著者が主張しているのは、150 年前の明治維新期、日本は世界政治の中で列強の一員として確固たる地位を築こうと強く望んでいたが、それを「日本らしさを失うことなく」実現しようとしていた、つまPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 47
元のページ ../index.html#75