60 ファイナンス 2025 Sep.本日は財務省の職員トップセミナーにお招きいただき、誠にありがとうございます。渋沢栄一は 1869 年から 1873 年まで旧大蔵省に奉職しておりました。また、私の祖父である渋沢敬三も大蔵大臣をしばらく務めさせていただいたご縁があります。このように深いご縁のある財務省において、栄一についてお話しする機会をいただきましたことを、大変光栄に存じます。私自身も、2021 年 8 月 21 日に行われた新一万円札の印刷開始を記念する式典に、父・渋沢雅英とともにご招待いただきました。津田梅子先生や北里柴三郎先生のご遺族の方々と共に、新札のコンテ画を拝受するという貴重な経験をさせていただいたことは、今も心に深く残っております。本日は、実業家、また社会事業家として、栄一がどのようにアメリカとの関係構築に貢献したのか、その歩みをお話させていただきます。さらに、その精神が現代の国際社会にどのように示唆を与えているのかという視点についても触れたいと考えております。お話に入る前に、私が役員を務めております公益財団法人渋沢栄一記念財団について、簡単にご紹介させていただきます。当財団は、東京都北区西ケ原にあり、栄一と共に暮らしていた書生たちの勉強会「竜門社」(1886 年結成)を起源として設立されました。栄一の人間性や思想、そして事績を探求し、それらを現代に活かすとともに、栄一が目指した公益の追求と、平和で道義のある社会の実現を目指して活動を続けております。財団は「渋沢史料館」、「情報資源センター」、「研究センター」の三つの機能を有しています。「渋沢史料館」では、1998 年に増設された「本館」で栄一に関する展示物をご覧いただけるほか、栄一の喜寿を祝って清水建設株式会社から贈られた「晩香廬」、そして今年で築 100 年を迎える「青淵文庫」も現存し、一般公開されております。「情報資源センター」では、栄一に関する各種資料や社史、企業史などをデジタル化して、特に「渋沢栄一伝記資料」については、日常生活の記録、講演書簡などをすべて検索・閲覧できるよう整備しております。私は栄一の玄孫(孫の孫)にあたりますが、長らく、栄一について体系的に学ぶ機会はありませんでした。私は長年アメリカで暮らし、またソーシャルワーカーとして、資本主義社会の中で取り残された、さまざまな形で差別されてきた人たちと向き合うことをライフワークとしてまいりました。そのような背景もあり、「資本主義の父」というイメージの強い栄一に、距離をおいてきた面もございます。しかし、5 年ほど前より渋沢栄一記念財団の仕事に関わるようになり、社会事業家としての栄一に目を向けるようになりました。生活困窮者のための施設である養育院の院長を務め、医療、教育など多様な社会事業に深く関与していたこと、そして社会事業を自らの天命としていたことを知り、大きな衝撃を受けました。さらに栄一が民間外交に取り組んだ背景には、まさに社会事業家としての視点や姿勢が深く根付いたのだと、理解するようになりました。本日は実業家としての側面に加え、社会事業家としての視座から、栄一がどのような思いを抱きながらア講 師演 題はじめに令和 7 年 6 月 13 日(金)開催令和7 年度職員 トップセミナー財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute連載セミナー渋沢 田鶴子 氏 氏渋沢 田鶴子(公益財団法人 渋沢栄一記念財団 業務執行理事)(公益財団法人 渋沢栄一記念財団 業務執行理事)渋沢栄一と日米関係渋沢栄一と日米関係
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