ファイナンス 2025年9月号 No.718
59/90

ファイナンス 2025 Sep. 55実店舗を展開し、越境 EC やグローバルなファンダム形 成 を 進 め て い る。Labubu( ラ ブ ブ )、DIMOO(ディムー)、SKULLPANDA(スカルパンダ)といった人気自社キャラクターは、いずれも内面世界や感情の投影を重視した設計がなされており、国境を越えた“推し文化”の担い手となった。ポップマートの消費者の多くは 1995 年以降に生まれた Z 世代である。彼らはモノの「機能性」ではなく、「共感性」「感情移入」「物語性」に価値を見出す。彼らは「安い」「多機能」よりも、「自分らしさ」や「共感」「推せるかどうか」を重視する。ポップマートは、キャラクター設定や商品構成を通じて、Z 世代が自身の内面や感情を重ねられるような「共感設計」を実現した。この手法は、SNS 時代においては特に効果的で、ユーザーが自ら“語る”ことで商品価値が増幅されていく。同社の主力商品であるブラインドボックスは、購入時にはどのキャラクターが当たるか分からない「不確実性」が特徴で、ガチャ的な遊び心が消費者の収集欲や SNS 投稿意欲を刺激する。「晒盒(シャーハー)」と呼ばれる“開封シェア”文化は、Xiaohongshu(小紅書/RED)や Tiktok(抖音)で爆発的に拡散し、商品の宣伝をユーザーが担うという構図を生んでいる。また、同社はキャラクターごとに詳細な設定やストーリーを与え、「自分の気持ちを代弁してくれる存在」としてブランド化している。例えば Labubu は愛嬌と毒っ気の混在した孤高のキャラ、DIMOO は内省的で夢想的な少年像といった具合である。中国政府は2010 年代以降、「文化創意産業(文創産業)」を国家戦略の一部に位置づけており、IP 保護の強化、資金支援、越境 EC 支援など、多角的な支援体制を整えている。2021年の『“十四五”文化産業発展計画』では、文化 IPの創出と保護が明確に掲げられ、ポップマートのような企業に対しても有利な環境が整えられた。一時的に伸び悩んだが、2023~24 年にかけて再び急成長期に投入し、2024 年には売上高 130 億元(約 2,600 億円)を記録した。注目すべきは粗利率の高さである。粗利益率は 66%超(2024 年)と売上、利益とともに過去最高を記録。IP と感情的価値によるビジネスモデルの有効性がうかがえる。注目すべきは、海外展開の急加速である。2018 年時点では、海外売上は極めて小さく、全体比では 3%程度とされていた。2020 年以降、越境 EC、自販機、海外店舗の展開により、売上構成比は急激に上昇。2024 年の海外売上は 50.7 億元(前年比 375%増)に達し、全体の約 39%を占めるまでに拡大しており、今後更に上昇するとの見方もある。韓国、日本、シンガポール、アメリカ、フランスなど、20 か国以上でグ手法ポップマートを代表する人気 IP、SKULLPANDA。ゴシックかつミステリアスなビジュアルが特徴。(筆者撮影)海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー 年度2018201920202021202220232024売上高(人民元)5.1 憶16.8 憶25.1 憶44.9 億46.2 憶63.0 憶130.4 憶増減率+226%+227%+49%+79%+3%+36%+107% 3 3 Z 世代の共感消費とマーケティン 4 4 国家政策とグッズ産業の融合

元のページ  ../index.html#59

このブックを見る