ファイナンス 2025年9月号 No.718
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連載海外 ウォッチャーWAT C H EWAT C H E 54 ファイナンス 2025 Sep.市場としての深化が加速している。このような爆発的な成長は、単なるヒット商品の量産ではなく、精緻に設計された IP モデル、販売戦略、感情マーケティング、そして中国社会全体の“グッズ化”傾向を背景としている。本稿では、ポップマートを中心に、中国のグッズ経済の構造、国家政策との関係、日本市場との比較、そして日系企業にとっての示唆を探る。ポップマートの成功は数字が物語っている。2018 年の売上は約 5 億元(約 100 億円。1 元≒ 20円)であったが、2018 年~19 年の爆発的成長期を経て、2020 年~20 年にも高成長を続けた。2022 年は(知的財産)や創作アートを基盤とした商品(フィ(Goods。中国語の音を充てた「谷子(GuZi)」が用(泡泡玛特 / POP MART)」である。同社は中国・財務実績香港出身アーティストによって創作された絵本「The Monsters」に登場するキャラクター、Labubu。海外セレブがバッグや SNSで使用し、2024 年以降のトレンド拡散を促進。(筆者撮影)O R EIGNO R EIGNFFRR筆者は、2024 年夏から北京に赴任している。過去には、2009 年から 2 年間、同じ北京での留学生活を送ったが、その後、十数年間の中国社会・経済・科学技術等の急速な発展・変化は、日々、世界各国のメディアによって私たちに届けられているように、常に注目を浴び続けている。近年、中国において「グッズ経済」という言葉が広く認知されるようになった。これは、キャラクターIPギュア、ぬいぐるみ、雑貨など)、すなわち“グッズ”いられることが一般化)が一大産業を形成し、若年層を中心に強い消費喚起を生んでいる現象を指す。単なる玩具ではなく、「感情」「世界観」「自己表現」の媒体としての商品が支持され、SNS を通じて拡散されることで、経済と文化の新たな結節点となっている。このグッズ経済の象徴的企業が、「ポップマート北京発のトイメーカーとして 2008 年に創業し、2015年以降、ブラインドボックス(中国語名「盲箱」、中身が分からない状態で販売される玩具。“サプライズトイ”とも呼ばれる)形式のフィギュアを中心に展開し、Z 世代の共感消費、コレクション欲と SNS 文化を巧みに取り込み、アジアを中心に急成長した。もともとは数十元(数百円~数千円程度)の小さなフィギュアが主流だったが、近年は「MEGA サイズ」や限定コラボ、オークション向け 1 点ものなど、アートトイ 1 1 はじめに:グッズ経済とは何か?海外ウォッチャー 2 2 ポップマートの成長軌跡と グッズがつなぐ感情と経済:ポップマートに見る中国グッズ経済の躍進在中国日本大使館参事官 阪井 聡至

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