ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT *20) 2024 年 3 月 26 日、財務省、外務省、警察庁、経済産業省は、「北朝鮮 IT 労働者に関する企業等に対する注意喚起」を公表した。https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/press_release/20240326.htmlファイナンス 2025 Sep. 45の個人には、北朝鮮の兵器やその他の軍事装備の研究開発を管理する組織である「313 総局」の幹部が含まれていた。北朝鮮は海外の仲介者の支援を受け、仮想ウォレット、銀行、電子金融プラットフォームなどを利用して資金を換金・移動し、制裁対象の物資の購入や北朝鮮の WMD 計画への資金提供に使用していた。より広い視点で見ると、デジタル経済と新興技術は制裁分野に新たな課題をもたらしている。例えば、日・米・韓は、北朝鮮が IT セクターを悪用し、IT 労働者が偽の身元を使って検知を免れ資金を調達していることを報告している*20。【日本の事例(「報告書」45 頁、Box 27)】2024 年 3 月、韓国籍の IT 関連会社社長と元従業員を詐欺罪等で通常逮捕した。同事件の被疑者らは、捜査の中でオンラインプラットフォームを通じて、日本企業から受注したアプリ開発等を中国に所在するとみられる北朝鮮 IT 労働者に依頼していたことが判明した。当該行為は、北朝鮮の WMD 計画に資金が流用される可能性があり、また国連安保理決議 1718 号に違反する制裁回避策に関与した疑いがある。【米国の事例(「報告書」 46 頁、Box 28)】2024 年 8 月、米国司法省は、北朝鮮の WMD を含む違法兵器計画のためのマネロン共謀及びその他の複数の犯罪で米国人を起訴した。被告人は、海外の IT労働者が米国企業でリモート IT 業務獲得を支援する計画に関与した。北朝鮮籍の IT 労働者は盗取した米国人の個人情報を使用しリモート IT 業務を獲得した。北朝鮮の IT 労働者は中国国内の拠点から業務を行い、25 万ドル以上の報酬を受け取ったが、米国外の口座には北朝鮮及び中国の関係者に関連する口座が含まれていた。エ.類型 4:海運セクターの悪用FATF 基準は海運セクターを明示的に対象としていないが、多くの国が当該分野を主要な脆弱性及び制裁回避のカテゴリーと認識している。これは、海運業界が船舶、港湾、物流などからなる幅広いネットワークを構築しているところ、拡散金融を通じ収益を得るためにこれらが悪用されているためである。その手法には、船舶の身元の隠蔽、船舶自動識別システム(AIS:Automatic Identification System)の操作、税関当局が審査する文書の偽造、そして船舶間の積み替え(STS:Ship-to-ship transfers)による貨物の出所や目的地の偽装などが含まれる。【シンガポールの事例(「報告書」 49 頁、Box 30)】被疑者が国外の 5 名と共謀し、取引書類を偽造の上、北朝鮮を最終港とする瀬取りによる貨物輸送を通じて、北朝鮮に 1 万 2,000 トン以上の軽油を供給した。ア.民間セクターのグッドプラクティスと課題拡散金融及び制裁回避スキームを検知するため、各国は「疑わしい取引の報告(SAR/STR:Suspicious Activity/Transaction Report)」と制裁スクリーニングとの突合に大きく依存している。国境を越えた情報の共有、機関間の連携、国際協力、オープンソース情報やブロックチェーン分析を含む監視ツールといった他の検知方法と合わせて活用する場合が多い。他方で、約 3 分の 1 の国が、拡散金融事例の検出方法として「疑わしい取引の報告」を利用していないとした点にも留意が必要である。これは、それらの国において拡散金融自体が犯罪化されていないため、報告対象主体に対し「疑わしい取引の報告」で拡散金融事例の特定を義務付ける可能性が低いためと考えられる。この点、当局が「疑わしい取引の報告」の適用対象事例が拡散金融に関する違法行為にも繋がりうることにつき、更なる指針を提供する余地があることを示唆している。また、「報告書」は、特定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)の拡散金融に関する理解と関連義務の遵守率の低さという問題点も指摘している。多くのDNFBPs は、拡散金融関連活動の監視と報告に係る自らの責任を認識しておらず、これにより当局は金融機関以外のセクターにおける拡散金融を検知することが複雑化する拡散金融と制裁回避スキーム54 頁、パラ 96 以降)(4) グッドプラクティスと課題(「報告書」

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