SPOT 44 ファイナンス 2025 Sep.及び制裁回避のリスクに特に晒されやすいと分析している。また、航空、海事、原子力、造船業も、軍民両用品や技術との関連性から、悪用されやすいと分析している。「報告書」では、4 つの主要な類型として、ア.制裁回避のための仲介業者(intermediary)の利用、イ.金融システムへのアクセスのための実質的支配者情報(beneficial ownership Information)の隠蔽、ウ.暗号資産(virtual assets)等の新技術の利用、エ.海運セクター(maritime sector)の悪用に分類し、それぞれの類型における様々な拡散金融と制裁回避スキームにおける手法を分析している。「報告書」の一つの特徴として、本プロジェクトの射程(scope)に従い、FATF 勧告 7 でその実施が求められている特に北朝鮮に対する拡散関連の標的型金融制裁(Targeted Financial Sanctions)の回避事例と、FATF 基準では義務付けられていない各国独自の制裁制度の回避事例の両者を包含しつつ、前者を緑・後者を青に明確に色分けの上記載している点が挙げられる。幅広いケーススタディを検討することで、異なる類型における脅威、脆弱性、共通の課題について、より包括的かつ最新の理解を深めるための工夫である。以下、代表的な事例を抜粋する。ア.類型 1:制裁回避のための仲介業者の利用第一の類型は、制裁を回避し軍民両用品の輸送を容易にすべく、仲介業者を利用することである。2021年、豪・ニューサウスウェールズ州最高裁判所は、豪国民を北朝鮮関連制裁法違反で起訴した。この事件では、当該人物はオフショア銀行口座と豪に拠点を置くフロント企業を利用して、北朝鮮に代わって購入したイラン産ガソリン、ミサイル、ミサイル関連技術など、様々な物品について北朝鮮との貿易を仲介していた。【オーストラリアの事例(「報告書」22 頁、Box 2)】(3) ケーススタディによる手口分析(報告書 21 頁、パラ 56 以降)イ. 類型 2:実質的支配者情報の隠□による制裁回避と金融システムへのアクセス制裁回避スキームが、外国に拠点を置くフロント企業や外国人、無認可の金融仲介業者、マネロン・テロ資金対策規制が緩い地域にある子会社、偽名で不正に取得したデビットカードやクレジットカードなどの第三者仲介業者を利用して、実質的支配者情報(beneficial ownership information)を隠蔽している事例を紹介している。【オランダの事例(「報告書」33 頁、Box 14)】認知度の高い有名企業と違法なトラスト・アンド・カンパニー・サービスプロバイダーを巧みに利用することで、イランからとされる資金が、主要な金融センターを経由してオランダの法人に違法に送金された。資金が最終目的地に到達するまでに、実質的支配者と取引目的を不明瞭にしたため、金融機関がスキームの全体像を把握できなかったものである。ウ.類型3:暗号資産及びその他のテクノロジーの利用暗号資産(virtual assets)は、制裁対象国への直接的な資金移動や、異なる制裁体制を有する第三国を経由した間接的な資金移動を促進するために利用されている。ミキシング、DeFi(分散型金融)契約、クロスチェーンブリッジなどの匿名性向上技術を用いて、資金の出所と送金先を隠蔽している。また、制裁対象者が暗号資産サービスプロバイダー(VASPs)等を標的としてサイバー攻撃などを行い、資金を調達していることも確認されている。この点、2025 年 3 月にインドで開催された Private Sector Collaborative Forum で設けられた拡散金融に係るパネルセッションにおいて(日本から財務省梶川審議官が登壇)、民間セクターからの参加者の多くが、新興金融技術、特に複雑かつ最新の手法を用いる北朝鮮を含む国家主体による暗号資産の窃取に関連するリスクの高まりを強調していた点も特記しておきたい。【韓国の事例(「報告書」41 頁、Box 22)】2024 年、韓国は北朝鮮に代わって資金を調達し、サイバー攻撃を仕掛け、暗号資産を窃取したとして、1 つの団体と 15 人の個人を制裁対象とした。これら
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