SPOT ファイナンス 2025 Sep. 43む主体は、国際的な金融ハブである国や、主要な港湾や物流インフラを有する国を標的とすることが多い。こうした国は、提供するサービスの幅広さ、世界的資金フローの規模の大きさ、開放経済における輸送活動といった点で、金融や軍民両用品(民生用と軍事用の両方の用途を持つ物品)輸送に利用されやすく、脆弱性が高いといえる。規制要因:各国がマネロン・テロ資金対策の強化で大きな進歩を遂げている一方、拡散金融に特化した措置の実施はなお改善の余地が大きい。このギャップは、国際金融システムの健全性と国連制裁義務の遵守にとって深刻な課題となっている。拡散金融や制裁回避スキームが益々複雑化する中、たとえ法律が存在していても、その検知と執行に必要な人的・資金的リソースや専門知識は不足しがちである。また、法人の実質的支配者の透明性に係る国内法制が脆弱な国では、当局が資金の流れを追跡したり、資産の最終的な所有者を特定したりすることが困難となりうることから、規制要因に起因する拡散金融の脆弱性が更に深刻化するといえる。地理的及び人口統計学的要因:国連安保理決議に基づく制裁や、各国による独自制裁の対象となる国に地理的に近いことも重大な脆弱性を生み出しうる。日本をはじめとして東アジアに位置し北朝鮮に近い国々は、拡散金融に関連する迂回的な取引や違法な輸送に係る脆弱性が高いと認識している。また、戦略的に重要な位置にある国は、しばしば重要な航路、自由貿易地域、あるいは交通量の多い国境検問所を支配しており、これが近隣諸国の脆弱性を高める例もある。また、よく見落とされる脆弱性として、国連制裁対象地域の外交官やその他の代表者の存在がある。これらの人物は、資産の移動、機密情報の収集、あるいは制限措置の回避に関与する可能性がある。イ.セクターレベルでの脆弱性分析銀行及びその他の金融セクター:拡散金融に対して最も脆弱なセクターとして、まず、国境を越えた取引に従事する銀行及びその他の金融セクターが挙げられよう。脅威の主体は、複数の口座、貿易文書の偽造、取引の階層化など、解明を困難にする様々な手法を用いて、資金の流れの本質と目的を隠蔽する。特に貿易金融は、軍民両用品や制裁対象品目の移動を隠蔽するために頻繁に悪用されている。また、電信送金は効率的ではあるものの、取引の目的や裏付けとなる書類に係る情報が限られているため、制裁回避の主要な手段となる傾向がある。暗 号 資 産(virtual assets:VA) 及 び 暗 号 資 産サービスプロバイダー(virtual assets service providers:VASPs):多くの国において、伝統的な金融監督を回避する目的も含め、国境を越えた資金移動に暗号資産が利用されている事例が増加している。拡散金融を目論む主体は、特に VA/VASPs 対策のための FATF 勧告 15 の履行状況が各国において均一でないことを積極的に悪用していると考えられている。規制が整備されている国でさえ、VASPs のコンプライアンス遵守のレベル次第でリスクが高まる。例えば、ミキシングサービスは、北朝鮮の WMDに関連するものも含め、大規模な暗号資産窃取による収益の洗浄に頻繁に悪用されているとされる。こうした新しく複雑な暗号資産の手段は、取引の追跡や資金の真の出所・送金先を特定することを極めて困難にしている。新たな代替決済インフラ:一部の国家主体及び非国家主体が、制裁執行に関連する従来の金融チャネルを回避するために、現地通貨決済の利用促進や、SWIFT の代替手段や P2P 取引など、新たな代替決済インフラを利用していることにも留意すべきである。その他のセクターレベルの脆弱性:伝統的な金融セクターに加え、複雑な法的構造の形成に関与する企業サービスプロバイダーや、宝石・貴金属業者などのセクターは、高価値で輸送が容易な手段を提供しているため制裁対象者が国境を越えて資金を移動するための代替となりやすく、拡散金融複雑化する拡散金融と制裁回避スキーム
元のページ ../index.html#47