ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT す*19。FATF 勧告 7 が対象とする国連安保理に基づく 42 ファイナンス 2025 Sep.https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Financingofproliferation/Proliferation-financing-risk-assessment-mitigation.html*17) 例えば、米外国資産管理局(OFAC)は、米の e.l.f Cosmetics 社が中国の 2 業者から輸入したつけまつげの原材料が北朝鮮産であり、OFAC の規制違反を問われた事例を公表している。本件では、e.l.f Cosmetics 社が OFAC に 996,080 ドルを支払うことで和解した。https://ofac.treasury.gov/recent-actions/20190131*18) https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000185.html*19) FATF “Guidance on Proliferation Financing Risk Assessment and Mitigation” パラ 22b。日本語訳は財務省による仮訳。関係者らは、北朝鮮の貿易と歳入増加を支援すべく、数億ドル規模の取引を促進していた。こうした金融面での連携の強化は、国際金融システムに脆弱性をもたらしている。第二に、北朝鮮が歳入を増加させるための手段が多様化しており、これが拡散金融や制裁回避の脅威をさらに深刻化させている。例えば、2024 年時点で、北朝鮮の「かつら」と「つけまつげ」の輸出は、北朝鮮隣国に対する北朝鮮の輸出の約 60% を占めていた。しかし、これらの取引は制裁対象の北朝鮮貿易会社と関連しており、当該輸出収益が北朝鮮の戦略兵器計画を支えている可能性が示唆されている*17。その他の収入源として、詐欺、サイバー窃盗、武器、麻薬、野生生物の密売などが挙げられる。北朝鮮による IT 労働者による活動については後述する。イ.イランイランも、依然として、複雑化する拡散金融と制裁回避スキームの大きな脅威と認識されている。イランは当初、ウラン濃縮プログラムの停止を義務付けた国連安保理決議第 1696 号の未遵守により、国連から制裁を受け、新たに決議第 2231 号が採択された*18。この決議内容のうち、イランに関連する個人及び団体に課された国連の標的型金融制裁は 2023 年 10 月に失効したが、多くの国が、イランに対する脅威から、独自に国内制裁プログラムを実施している。イランは、中東における軍事化された代理組織や、制裁を回避するために外貨両替所や銀行を利用する国際犯罪ネットワークに依存してきた。特に、ヒズボラは、制裁に直接違反してイランの代理として活動し、石油、武器をはじめとする様々な制裁対象物の大規模な密輸活動を行っている。ウ.ロシア上述のとおり、ロシアと北朝鮮の経済的・軍事的連携は、ロシアが拡散金融の脅威たりうる懸念を惹起している。 上述の包括的戦略的パートナーシップ条約は、北朝鮮の WMD 計画を支える新たな収入源を生み出した。更に、この新たな二国間条約に基づき、北朝鮮兵士がロシア・ウクライナ紛争に派遣されたとの報告もある。こうした経済・軍事関係の拡大は、多くの国でロシアが拡散金融の脅威であるとの懸念を高めるとともに、拡散金融と制裁回避の状況を更に複雑化させている。エ.その他の脅威多くの国は、国家主体(state actors)に加え、テロ 組 織 や 犯 罪 組 織 な ど の 非 国 家 主 体(non-state actors)が、生物兵器、化学兵器、核兵器を含む大量破壊兵器に関連する物資、知識、技術を入手・調達しようとする動きを依然として懸念している。この点、2022 年 11 月に更新された国連安保理決議第 1540 号は、非国家主体への大量破壊兵器の拡散を防止するという世界的なコミットメントを再確認した。これまでのところ、非国家主体が金融システムを悪用して拡散金融を行う主体やその活動を支援していた事例は少ないものの、多くの国は、その潜在的な影響を継続的に監視することが重要と認識している。脆弱性とは、拡散金融に係る金融制裁の違反、未実施、又は回避を支援・促進する可能性のある脅威や脅威主体によって悪用される可能性のある要因を指制裁は、現在北朝鮮のみを対象としているが、拡散金融リスクをより広い視点で捉えている国にとっては、北朝鮮に限らず全ての拡散金融主体によって悪用される脆弱性に適用されることになる。脆弱性の分析は国家レベルとセクターレベルで行われるため、本稿もその分類に従う。ア.国家レベルの脆弱性分析経済及び貿易要因:拡散金融及び制裁回避を目論(2) 脆 弱 性(vulnerabilities)( 報 告 書 16頁、パラ 36 以降)

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