ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT *11) https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Financingofproliferation/Guidance-counter-proliferation-financing.htmlhttps://www.fatf-gafi.org/en/publications/Financingofproliferation/Proliferation-financing-risk-assessment-mitigation.html*12) FATF “Guidance on Proliferation Financing Risk Assessment and Mitigation” パラ 22a。日本語訳は財務省による仮訳。https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Financingofproliferation/Proliferation-financing-risk-assessment-mitigation.html*13) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsc/page3_003268.html*14) 同上。*15) 同上。その後、2024 年 10 月、同年 4 月に専門家パネルの活動が終了したことを受け、日本を含む同志国は、多国間制裁監視チーム(MSMT: Multilateral Sanctions Monitoring Team)を設立。本年 5 月、第 1 回目の報告書を公表した。*16) http://en.kremlin.ru/acts/news/75534ファイナンス 2025 Sep. 41するためのガイドラインを 2018 年及び 2021 年に公表している*11。今回公表に至った「報告書」は、拡散金融に関連する 制 裁 回 避 に 対 処 す る た め に、 権 限 あ る 当 局(competent authorities)、金融機関、特定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)、及び暗号資産サービスプロバイダー(VASPs)が、適切に拡散金融のリスクを評価し、その活動の支援に資することを目的としたものである。拡散金融のリスクの特定にあたっても、マネロン・テ ロ 資 金 に 係 る リ ス ク 評 価 同 様、 リ ス ク の「 脅 威(threats)」、「脆弱性(vulnerabilities)」及び「脅威・脆弱性の影響とその対応(consequences)」の要素に基づき評価することとされている。本稿でもその整理に従って概説する。なお、各項目に「報告書」本体のページ・パラ番号を付すので、更にご関心のある方はご参照いただきたい。脅威とは、過去、現在又は将来において、拡散金融に係る対象を特定した金融制裁の履行を回避、違反又は悪用した、あるいはその可能性がある個人又は団体を指す*12。その中には、大量破壊兵器等の開発、保有、輸出等に関与するとして資産凍結等措置の対象となっている者や当該対象者の支援や同調をする個人、団体も含まれる。また、実際に回避、違反又は悪用した、あるいはその可能性があるものだけでなく、間接的に関与したものも含まれる。上記に基づき、「報告書」においては、現在の状況における脅威を以下のとおり分析している。複雑化する拡散金融と制裁回避スキーム3. 「複雑化する拡散金融と制裁回避 スキーム」プロジェクト報告書の概要(1) 脅威(threats)(「報告書」12 頁、パラ18 以降)ア.北朝鮮北朝鮮は、拡散金融対策において重要な脅威の主体である。2006 年の国連安保理決議第 1695 号以降 20年近くに及ぶ国連制裁*13 にもかかわらず、北朝鮮は大量破壊兵器の開発を続けている。例えば、2024 年 10月、北朝鮮は軍備拡張計画に基づき11 発目の大陸間弾道ミサイルを発射し、国際的な制裁への継続的な抵抗を示した。北朝鮮は、違法な資金の流れを隠蔽するた め の 仲 介 業 者(intermediary) や 実 質 的 所 有 者(beneficial ownership)構造の悪用、暗号資産を含む新技術の活用、瀬取り(ship-to-ship transfers)や文書偽造(falsifying documentation)など、様々な制裁回避戦術を用いている。国際的な監視の観点から見ると、国連の北朝鮮制裁リストに新たな主体が最後に追加されたのは 2017 年であり、それ以降新たな指定はない*14。国連安保理決議第 1718 号に基づき設立され、北朝鮮に関する拡散金 融 行 動 を 監 視 す る た め の 専 門 家 パ ネ ル(POE:Panel of Experts)は、昨年 4 月、その活動延長決議においてロシアが拒否権を発動(中国は棄権)したことにより活動終了に追い込まれた*15。これにより、北朝鮮の大量破壊兵器に係る活動をグローバルに監視する体制に重大な空白が生じたことで制裁回避活動の追跡と対処が困難になり、FATF の文脈においても、各国による北朝鮮に関連する拡散金融リスクの評価やその低減措置といった対応が阻害されている。「報告書」は、北朝鮮による大量破壊兵器計画への資金調達に寄与する2つの主要な要因を指摘している。第一に、北朝鮮の金融面における各種連携強化の動きである。例えば、2024 年末、北朝鮮とロシアは包括的戦略的パートナーシップ条約を締結した*16。そこでは、銀行間連携を含む経済協力の強化、両地域の経済・投資可能性に関する相互理解の促進に合意している。2024 年時点で、国連安保理制裁により北朝鮮の金融機関関係者は追放対象となっているにもかかわらず、北朝鮮隣国及びロシアに拠点を置く北朝鮮の金融

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