る*8。それ以降約 20 年が経過し、金融取引の状況は世SPOT 40 ファイナンス 2025 Sep.*7) なお、我が国は FATF の加盟国であると同時に、アジア・太平洋諸国をカバーする APG(Asia Pacific Group on Money-Laundering)のメンバー国でもある。APG においては、2024 年 9 月から約 2 年間、FATF 日本政府首席代表の財務省梶川審議官が共同議長を務めており、本年 8 月には東京で年次総会を開催した。開催期間中、金融庁が暗号資産とその悪用に関するセミナーを主催し、「プロジェクト」の米・日 Co-lead がその概要や意義を説明した。*8) https://www.fatf-gafi.org/en/publications/Methodsandtrends/Typologiesreportonproliferationfinancing.html*9) https://www.chainalysis.com/blog/bybit-exchange-hack-february-2025-crypto-security-dprk/*10) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/index.htm(当初 8 個、後に 9 個)が定められた。また、2012 年integrity)」に資するその役割の大きさに比例し、FATF 事務局は現在 70 名以上のスタッフを抱えるまで(WMD:Weapons of Mass Destruction)プログラが同じ基準(FATF40 の勧告、解釈ノート等)を適用し、加盟国間の履行状況を相互に審査し合っている*7。FATF の役割は創設以後順次拡大している。当初は薬物犯罪や重大犯罪に起因するマネロン対策のみを対象としていた。その後、2001 年 9 月に発生した米国同時多発テロ事件を受け、テロ対策のための特別勧告には、イランや北朝鮮の大量破壊兵器の拡散活動の脅威の高まりを受け、拡散金融もその活動対象に含めることとなった。私は 2020 年から 3 年間、財務省国際局から FATF事務局に出向した。創設当時を知るスタッフは少なくなっていたが、「当時は OECD 金融企業局の片隅に担当者の机が 2 つ置かれていただけだったんだ。」といった昔話を聞かせてくれた。日進月歩で進展するマネロン・テロ資金供与・拡散金融のリスクや脅威に対応し、FATF 最大の任務である「金融の健全性(financial に成長している。そもそも、なぜ「複雑化する拡散金融と制裁回避スキーム」なるプロジェクトが立ち上げられたのだろうか。主な理由として 2 つ指摘しておきたい。第一に、拡散金融を巡る問題への対応は緊急性が高いことが挙げられる。前回、FATF が拡散金融に係るタイポロジーの報告書を公表したのは 2008 年であ界全体で劇的に変化している。拡散金融に関しても、国家主体(state actors)のみならずテロ団体などの非国家主体(non-state actors)が、大量破壊兵器ムを支援するため、高度な調達ネットワーク、収益獲得スキーム、そして新たな金融技術を用いることで制裁を回避している例が散見される。例えば、北朝鮮は、2025 年 2 月にドバイを本拠にインターネット上で暗号資産取引を行っている ByBitから 15 億ドルを窃取するなど、暗号資産関連企業へのサイバー攻撃を通じて数十億ドル規模の収益を得ている*9。また、日本、米国、韓国等では、北朝鮮の情報技術(IT)関連の労働者が身元情報を偽装等することで、不正にリモートワークの職を得ている(後述のケーススタディ参照)。このように、北朝鮮は WMD計画のために大規模な不正収入を生み出しているとみられるが、当局によって把握された事案は全体のごく一部に過ぎないと考えられている。日本は、北朝鮮による暗号資産窃取への対応が喫緊の課題である点を国際場裡で指摘してきた。特に、本年 5 月に開催された G7 財務大臣・中央銀行総裁会議に お い て 採 択 さ れ た G7 「Financial Crime Call to Action」で、「北朝鮮の暗号資産窃取」に係る取組みの重要性が日本の提案に基づき盛り込まれた点は特筆すべきである*10。このように脅威が増大しているにもかかわらず、FATF が 2014 年から 2024 年にかけて行った第 4 次相互 審 査 の 結 果 を 分 析 す る と、 法 整 備 状 況(TC:Technical Compliance) に つ い て は、 ほ ぼ 半 数(46%)の国で拡散金融に対処するための適切な法的枠組みが整備されていない。更に、法令の実効性確保(IO:Immediate Outcome)については、拡散金融に効果的に対処できている割合は16%にとどまっている。第二に、各国当局や民間セクターの関係者に必要な情報を速やかに提供する必要性も指摘したい。上述のとおり、FATF が自らのマンデートに拡散金融を加えたことを受け、2020 年には、従来マネロン・テロ資金供与に係るリスク評価を求めていた勧告1を改訂し、各国は拡散金融のリスクについても特定、評価、理解し、それらのリスクに応じた緩和策を講じることが求められることとなった。そして、本年から始まる第 5次相互審査からその実施状況が審査対象となる。これに伴い、FATF は各国が拡散金融リスク評価書を作成(2)現状・問題点
元のページ ../index.html#44