ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT ファイナンス 2025 Sep. 37「社債発行にかかる省令(2017 年)」は公募および私募を規定するものであったが、ABMI チームとして「適格投資家むけ債券募集省令(2020 年)」の作成も支援した。これにより、主に機関投資家から構成されるプロ債券市場セグメントが創出された。また、プロ投資家むけであることから、発行申請や情報開示要件が、公募より簡素化された。SERC の「グリーン・ソーシャル・サステナビリティ債券指針(2022 年)」も、ABMI チームで作成支援した。これに基づき、カンボジア初のグリーンボンドが同年 12 月に発行された。発行体の不動産開発会社ゴールデン・ツリー社に対しては、同社グリーンボンド枠組みの作成などを ADB が支援した。また、2023 年には通信事業者 CamGSM 社が、カンボジア初のサステナビリティボンドを発行した。カンボジアで社債市場が始動してからまだ 7 年しか経っていない。しかし、SERC は進取の精神に富んでおり、金融商品を多様化させるための制度づくりに貪欲である。ADB が年 3 回開催する ASEAN+3 債券市場フォーラムにもSERC高官が積極的に参加しており、今後も社債市場のさらなる発展が期待される。日本 ASEAN 金融技術支援基金での ASEAN 事務局を通じたカンボジアむけ ABMI 技術支援は、2004~2005 年にフェーズ 1 が実施された。現在はフェーズ11(2024~2025 年)にあたる。断続的ながら約 20年にわたり日本が支援してきたことになる。2025 年 1 月には、植野篤志・駐カンボジア日本国大使により「対カンボジア日本 ASEAN 金融技術支援 20周年記念レセプション」を大使公邸で開催頂いた。カンボジア政府からは主賓として、ハン・チュオン・ナロン副首相(兼教育・青少年・スポーツ大臣)が出席した。ナロン副首相は、初期フェーズの頃に MEF 事務総長であり、ABMI 技術支援のカウンタパートでもあった。ASEAN+3 会合にもよく出席していた。主賓挨拶のなかで、ナロン副首相からは、証券市場などなかった 20 年前から現在の発展度合への感慨とともに、日本の長年の支援への感謝が述べられた。他にもカンボジア側からは、MEF ロス・セイラバ長官やメイ・バン長官、NBC チア・セレイ総裁、SERC スー・ソチート事務局長など、高官がたくさん参加した。財務省国際局からは渡部康人次長(当時)などが出席した。レセプションの歓談の場では、参加者から後日談を聞けた。NBC 出席者からは、「2023 年 10 月のワーキングループ会合では、明確に NBC を推奨してくれて感謝している。MEF には CSX を推す勢力がいた一方、NBC 総裁からは将来の金融政策のため国債事務は何としてでも NBC で引受けろと指示を受けていた」と聞かされた。また、SERC 出席者からは、「2010 年代半ばに社債市場を作ろうと検討し始めたころ、複数の国際機関から国債イールドカーブや信用格付機関も存在しないのに社債市場など無理と言われた。ABMIチームだけが、国債イールドよりも銀行金利を参照にし、かつ当時は信用格付機関も機能していないのに社債市場が勃興していた隣国ベトナムを事例に、カンボジアでも社債市場は始動できると後押ししてくれた」と言われた。ABMIという地域金融協力の枠組みの中で、市場の創設を一からサポートできたことは、技術支援従事者冥利に尽きることであった。また、地域協力というかたちであるとはいえ、それを資金面、技術面、人材面から日本がサポートしてきたことはカンボジア財政・金融関係者に明確に理解されている。ABMI による技術支援は、これまでの二国間協力に止まらない、新たな技術支援のモデルも提示できたのではないかと思う。末筆ながら、ABMI 技術支援に 20 年超に渡り基金支援してきた財務省への感謝を記して、本稿を絞めたい。20 周年記念レセプション(2025 年 1 月)カンボジア債券市場育成への支援3. ABMI 技術支援 20 周年記念 レセプション出所)在カンボジア日本国大使館

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