ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT ファイナンス 2025 Sep. 35行し、2024 年から少なくとも流通市場は CSX に集約するという実行計画がついていた。2023 年 1 月に MEF が公表した同年の国債発行計画では、毎月一回の入札のうち、7~8 月と 11~12 月の入札は CSX、他の月は NBC となっていた。よって、実際には 2022 年末から CSX で国債事務をどう行うかという検討が始まった。また、2023 年内に暫定版を更改し、「国債市場発展にかかる政策的枠組み 2023-2028 年」と格上げすることになった。よって、中期的に国債市場をどう設計するか、具体的には NBC または CSX どちらに国債事務を集約していくかという議論が再燃した。先手を打ったのは CSX であった。ウェブ上で国債入札プラットフォームを作成し、2022 年 11 月には証券会社むけに入札デモを試行した。証券会社むけの説明資料では、CSX プラットフォームで発行された国債は CSX に上場され、別の債券専用プラットフォームで取引するという計画であった。MEF は長官を議長とする「国債市場発展にかかる政策的枠組み」ワーキンググループを設置し、2023年に入ると約 2 か月ごとの頻度で検討を重ねた。ワーキンググループには MEF 傘下のカンボジア証券取引委員会(SERC)や CSX も入った。NBC も必要に応じて参加した。また、ABMI チームだけでなく、世界銀行や国連開発計画(UNDP)の専門家やコンサルタントも議論に加わった。ABMI チームや世界銀行でまず、国債事務を NBCと CSX の両方に委託することは避けるべきであるという点で一致した。ただでさえ小さな国債市場を二分することは、MEF に費用がかかるだけでなく、投資家にとっても不便で、安定的な発行や将来的な流通をむしろ阻害しかねない。MEF の国債発行計画を否定することになったが、MEF は国際開発金融機関の意見を受入れ、同計画を変更した。ワーキンググループ会合や相対の面談では、NBC(現状維持)と CSX 移管案の比較検討も求められた。ABMI チームとしては、CSX の計画について、主に 4つの懸念を指摘した。第 1 に、NBC による国債取引・保有を想定しておらず、国債を用いた公開市場操作など金融政策を阻害する。第 2 に、資金決済を CSX 指定の決済銀行(複数)としており、決済銀行以外の国債投資を阻害する。決済銀行以外にとっては、決済銀行に事前送金が求められ、DVP 決済にならない。本来リスクのない国債投資なのに、決済銀行の信用リスクを取らないといけない。しかも、他行に落札価格や取引価格が知られてしまう。第 3 に、償還や利払いに際して MEF がどのように投資家に支払うか考慮されていない。保管振替する CSX には、NBC にある国庫統一口座へのアクセスがない。第 4 に、合弁会社の CSXが保管振替すると、国外投資家からみてカンボジア国債に投資するのに CSX の信用リスクが生じかねない。ワーキンググループ会合も回を重ねるうちに、少しづつ他の国際機関が呼ばれなくなり、最後に残ったのは ABMI チームだけとなった。理由はよく分からないが、議論を積み重ねる中で相手国の状況を理解した的確なアドバイスと債券市場育成に関する幅広い知見が評価されたのではないかと思う。また、ソーシャルメディア等を通じて担当者とやり取りができるほど緊密な関係を築けていたことも影響した可能性がある。2023 年 10 月の会合では、「国債市場発展にかかる政策 的 枠 組 み 2023-2028 年 」 の 最 終 案 と し て、 当 面2026 年までの国債事務をどちらに委託するか、MEF大臣に上申する結論をだすことになった。GDICDM担当者からは、長官を含む出席者に対して、どちらを推すか意見をはっきり述べて欲しいと事前に要請された。MEF 高官だけでなく、NBC や SERC、CSX の幹部たちが出席する中で、カンボジア側の出席者たちは一択の意見を言いにくいとの由だった。ABMI チームとしては、NBC を推奨する理由を 3 点にまとめて発言した。第 1 に、カンボジアをはじめASEAN の金融市場では銀行の存在が圧倒的に大きく、国債への投資家も銀行が中心になる。そして、全ての銀行が最もアクセスしやすいのがNBCプラットフォームである。第 2 に、NBC 自体が国債の流通市場の参加者であり、特に市場発展の初期段階では中央銀行による国債取引が価格形成の基礎となる。流通市場を機能させることは、発行価格の低下を通して MEF にも裨益する。NBC にとっても銀行ごとの国債保有状況を常時みれることは、金融政策の実効性を増す。第 3 に、NBC プラットフォーム、即時グロス決済(RTGS)、保管振替、国庫統一口座など、DVP 決済を含む国債事務に必要不可欠な機能は、中銀債の発行などを通じカンボジア債券市場育成への支援

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