ファイナンス 2025年9月号 No.718
38/90

ルエリ億010SPOT 34 ファイナンス 2025 Sep.1 に、それまで短期の中銀債と流動性のほぼ皆無な社約締結が必要であり、年内発行まで契約交渉している時間的な余裕がない。結果的には、暫定的に NBC に委託することで MEF大臣の決裁がおり、MEF と NBC は国債事務にかんする同意書を締結し、2022 年 9 月に約 16 年ぶりに国債が発行された。以降、MEF はほぼ月に一回の頻度で国債を発行している。執筆時点で、国債は現地通貨リエル建てで、期間は 1~3 年満期がほとんどである。発行方式としては、国債募集引受団(シンジケート団、シ団)を提案した。主な理由は 2 点であった。第債しかなかった金融市場で、入札だと銀行や証券会社が価格づけするのは困難で、結果的に MEF にとって高くつくと懸念した。対して、シ団方式であれば、シ団と交渉して価格づけできる。第 2 に、シ団方式だと総額引受なので、国債を安定的に発行できる。シ団との協議を通して、発行額や期間なども調整しやすい。対して、入札だと札割れを起こしかねない。しかし、MEF は入札方式を選択した。シ団の選定や価格づけそのものが GDICDMにとって交渉コストになり、かつ入札結果という分かりやすく透明性の高い価格づけの方がMEF内外に説明しやすいとの由であった。入札方式としては、利回り競争入札かつダッチ方式を提言した。金融がドル化しているカンボジアにおいてリエル建て国債に入札する機関投資家数は多くないであろうし、発行頻度ひいては国債本数もそう多くならないので、できるだけ簡素な商品設計から始めてはという意図であった。しかし、MEF は価格競争入札かつコンベンショナル方式を採用した。ちょうど同時期に NBC が中銀債を価格競争入札に移行しようとしていたので、歩調を合わせたことになる。また、各落札者ごとの入札価格で発行するコンベンショナル方式の方が、均一の発行条件となるダッチ方式より、MEF 内外に説明しやすいとの由であった。2022 年 9 月の発行再開から半年ほどは入札の不調が何度か続いた。2023 年に入ってプノンペン出張に行けるようになり、NBC プラットフォーム(銀行間市場 IT システム)上の入札画面を見せてもらうと、その一因が判明した。一入札あたり一価格しか応札できない仕組みになっていた。早速、周辺国の国債入札を調べると、タイでは 3 つの価格、ベトナムでは 5 つの価格まで応札できる仕組みになっていた。MEF と NBC に対して、柔軟性のある入札方式の意義を説明し、複数価格での入札を提言したところ、2023 年 7 月から 5 つの価格まで応札できるようになった。国債の入札状況も改善し、2024年にかけて発行額も増えていった(図表 1)。2022 年からの国債の発行再開に先駆けて、MEF は2021 年 10 月に「国債市場発展にかかる政策的枠組み(暫定版)」を公表した。暫定版とはいうものの、首相の署名もついた国債市場の発展計画である。国債の発行・流通市場として、2022 年は NBC で開始、2023年にかけて NBC and/or CSX プラットフォームに移図表 1 カンボジア債券発行額700価格競争入札600500400300200100201819202122国債 社債232425年1-7月注)社債の数値は上場債のみ(私募債は非上場)出所)MEF、CSX(6)市場設計(国債事務委託先)(4)発行方式(5)入札方式

元のページ  ../index.html#38

このブックを見る