ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT *4) NBFSA は 2021 年に設立された*5) 財政年度は暦年ファイナンス 2025 Sep. 33MEF にとって国債市場育成の重要度が増した。第 2に、MEF で国債の主管局が変わった。以前は金融機関総局(GDFI)が主管していたが、同局の役割はノンバンク金融庁(NBFSA)の設立準備*4 に移管され、代わって国際協力・債務管理総局(GDICDM)が国債の主管局となった。GDICDM は譲許性の高い借款の借入・返済窓口であるため、将来的にそれを少しづつ代替していく国債の重要性を強く認識していた。ちょうど主管の移行期であった 2018 年に、転機は訪れた。当時の ABMI 技術支援カウンターパートは名目 上 は ま だ GDFI で あ っ た。 し か し、GDFI とGDICDM は MEF 本省敷地内の同じビルに入居していたため、たまたま遭遇した GDICDM 局長(当時)に呼 び 止 め ら れ た。 同 局 長 い わ く、「 国 債 の 担 当 がGDICDM に 1~2 年以内に移管される方針である。ただ、(旧)国債法が成立して 10 年以上たつのに国債市場はもちろん施行令や省令もない。根本的な理由を教えて欲しい」との由だった。筆者(水野)の返答は、「そもそも(旧)国債法が想定する公共投資基金のような仕組みは、財政黒字な石油産出国などでは機能するかもしれないが、カンボジアのような開発途上国には不向きである。できれば大幅な法改正が望ましい」という、本質的だが外国人コ ン サ ル タ ン ト と し て は 大 胆 な も の で あ っ た。GDICDM としては当初マイナーな改正に止めるつもりだったようだが、最終的には、国債法の抜本的な改正を目指すこととなった。法改正(案)としては、具体的に主に以下の 3 点を2019 年に提案した。第 1に、国債の発行・償還計画は、政府予算の枠内に入れ込むこと。第 2 に、国債の調達資金や返済原資は国庫統一口座で管理し、国債管理基金やその運営委員会にかかる条項をなくすこと。第 3に、調達資金の使途も政府予算の枠内とし、投資計画にかかる条項をなくすこと。また、法改正(案)では、国債事務の委託や無券化に関する条項も追加した。2020 年 3 月までプノンペンに足しげく通い、改正(案)を練り上げていった。しかし、新型コロナウイルスの世界的な大流行にともない、同年 4 月から現地に行けなくなった。数ヶ月して GDICDM から連絡あり、MEF 大臣を含む関連閣僚の意向として、旧法を廃止する前提で、新しい国債法としての法案が送られてきた。いくつか修正点をコメントし、法案の最終文面 は ク メ ー ル 語 で あ る こ と も あ り、 し ば ら くGDICDM に任せていたところ、2020 年末に国会で可決されたと連絡と報道があった。新国債法は 2021 年から施行されて現在に至る。新国債法が成立してから、GDICDM の動きは速かった。2021 年に審議・成立した 2022 年の政府予算に国債発行が盛り込まれた*5。2022 年に入ると、国債事務を誰が執り行うかが具体的な検討課題となった。新国債法では、国債事務はMEF 自身でもできるし、NBC やカンボジア証券取引所(CSX)に委託もできると規定している。中央銀行法(1996 年)でも、NBC は政府の代理人として国債事務を受託できると規定している。対して、CSX は会社法(2005 年)に基づいて設立された、MEF と韓国取引所との合弁会社である。三つの選択肢のうち、まず MEF 自身という案が消えた。GDICDM に金融事務処理を行う体制がないという判断であった。残る二つの選択肢の中で、NBCも CSX も国債事務の受託に対して積極的であり、GDICDM の判断は揺れていた。また、NBC は国庫事務を MEF から受託しているが運営上は独立性を保っているのに対して、CSX はいわば MEF 傘下でありMEF との人的な関係性が強い。よって、MEF 内部では CSX を推す勢力が強かった。2022 年半ばにかけてコロナ禍での何度かのオンライン会議で、ABMI チーム(ADB と ASEAN 事務局)からは以下の理由で NBC を推した。第 1 に、まず想定される機関投資家である商業銀行にとって最もアクセスが簡単である。第 2 に、国庫事務も NBC に委託しており、MEF にとって資金決済が簡単である。第 3に、NBC はすでに中銀債(短期の譲渡性預金証書)を発行しており、債券事務の経験がある。第 4 に、MEFとNBCなら覚書の類で国債事務を委託できるが、企業体である CSX に対しては委託料を含む子細な契カンボジア債券市場育成への支援(3)国債市場の(再)始動

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