ファイナンス 2025年9月号 No.718
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SPOT 32 ファイナンス 2025 Sep.*1) 前 ADB 経済調査・開発効果局アドバイザー*2) ASEAN 事務局(日本 ASEAN 金融技術支援基金)コンサルタント*3) 2029 年末に LDC 卒業の見込み(執筆時点)90 年代後半のアジア通貨危機の原因となった通貨と第 6 回 ASEAN+3(日中韓)財務大臣会議で正式に設(ADB)や東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局へ第 1 に、国債の発行・償還計画は政府予算の枠外で、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)は、期間のダブルミスマッチ解消を目的として、2003 年立された。日本は、ABMI として、アジア開発銀行の拠出基金を通じ、ASEAN 発展途上国の債券市場整備を一貫して支援してきた。*1*2本稿では、ABMI として技術支援を行なったカンボジア債券市場発展の経緯とその方策について振り返る。特に、一国の国債市場の創設支援という貴重な機会に恵まれたことから、国債市場を中心に回顧したい。カンボジア経済財政省(MEF)は、2022 年 9 月から満期一年以上の国債を発行し始めた。よって、これが最初の国債発行と報道され、多くの MEF 職員や金融関係者もそう思っている。しかし、実際には少なくとも2003 年から2006 年にかけて、当時の財政法(1993~2008 年)に基づき、国庫短期証券を発行していた。入札・発行事務は、中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)に委託していた。2007 年には、旧国債法が成立したが、皮肉なことに同年から国庫短期証券の発行は中止された。後にその経緯について当時の関係者たちに聞いてみたが、明確な理由はえられなかった。なお、旧国債法の起草には、ABMI 技術支援は関わっていない。旧国債法の特徴としては、以下の 4 点が挙げられる。別途に国会承認を必要とした。第 2 に、国債管理基金を設立し、調達資金を同基金で管理し、返済原資も同基金から拠出するとした。返済が不足しそうな際には、国庫より返済を補うという条項もついていた。第3 に、調達資金の使途は、MEF 大臣を委員長とする同基金の運営委員会で投資計画を作り、国会承認をえるとした。第 4 に、同基金は財務諸表を作成し、国会に提出するとなっていた。要するに、政府予算や国庫統一口座とは別に、(目的税歳入のない)特別会計で公共投資基金を作るような仕組みであった。しかも、国債の返済に責任を持つのは第一義的に同基金である。これでは、投資家や格付機関からすると、国債の信用力の裏付けである徴税権とは別に、同基金の返済能力や政府による同基金への関与度合をみなければならない。2010 年代半ばまでの ABMI 技術支援では、旧国債法を所与として、国債管理基金やその運営委員会にかかる施行令案や省令案、同基金と国庫の連携案の作成などに従事した。しかし、これらの案が政府や MEF 大臣に提出されることはなく、日の目を見ることはなかった。一方、カンボジア政府の債務調達手段は、国際開発金融機関などからの長期かつ低利な譲許性の高い外貨建て借款がほとんどを占めてきた。2010 年代後半に入って、後の国債市場(再)創設につながる環境変化が 2 つ起きた。第 1 に、カンボジアの経済成長により、国連の後発開発途上国(LDC)分類からの卒業が見えてきた*3。卒業すると譲許性の高い借款で債務調達できる割合は減っていくため、国際局地域協力課 地域協力企画官 竹中 俊一/ 課長補佐 金田一 敏幸/調査係長 齋藤 康太埼玉大学経済経営系大学院特任教授 山寺 智*1野村総合研究所タイ顧問 水野 兼悟*2(2)新国債法(2021 年〜)(1)旧国債法(2007〜2020 年)1.国債市場育成カンボジア債券市場育成への支援

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