ファイナンス 2025年9月号 No.718
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00502030100 28 ファイナンス 2025 Sep.本稿では、サプライチェーン上における依存関係へ着目し、我が国における地政学リスクについて分析した。(図表 1)サプライチェーン上のリスクの概念図(図表 3)TiVA の特性を示す例(貿易統計との比較)(図表 2)TiVA と PTF(図表 4)PTF の算出における考え方TiVA と PTF大臣官房総合政策課 朏島 大樹/正司 貫統/川本 将平/ 廣元 未希/田矢 祐樹/齊之平 大致地政学リスク・サプライチェーンリスクにかかる分析<C国がA国から20ドル分、B国から30ドル分部品を輸入し、D国に製品を100 ドル輸出するケース>A 国C 国B 国•特定国からもたらされる付加価値額が多いこと(①:量的依存)、サプライチェーン上で特定国を経由する回数が多いこと(②:頻度的依存)は、リスクとなり得る。•①②に当てはまる相手国(③)は、サプライチェーン上における急所(チョークポイント)となり得る。A 国①②③……量SPOTB 国A 国日本C 国D 国…D 国(注)矢印は各サプライチェーンを示す。矢印の太さにより付加価値量の大きさを表す。部品:20製品(中間財):100(付加価値:50)部品:30上記例において、グロスベースの貿易統計では、A 国で生じた 20、B 国で生じた 30 の付加価値が、C国の輸出でも二重に計上されている。これに対し、TiVA では、A 国で生じた 20 の付加価値、B 国で生じた 30 の付加価値、C国で生じた 50 の付加価値が別個に計上され、各々がD国への輸出とされる。C 国日本A 国B 国D 国貿易統計 TiVAA 国⇒C 国B 国⇒C 国C 国⇒D 国A 国⇒D 国B 国⇒D 国貿易量203010000150日本の産業活動のインプットとして、特定国を源泉とする付加価値を大量に含んでいる場合、リスクとなり得ることに着目し、量ベースの集中度を図る。C 国日本日本の産業活動のサプライチェーンが特定国を経由する回数が多い場合、リスクとなり得ることに着目し、頻度ベースの集中度を図る。B 国頻度B 国A 国(出所)図表 4 は Inomata and Hanaka(2024)を参考に筆者作成上の図において、サプライチェーンがA国を経由する平均回数は、 (0+2+1+1+1+1)/6=1 回  となる。① B→C→日本② B→A→C→A→日本③ C→A→日本④ B→A→日本⑤ B→D→A→日本⑥ A→D→日本D 国・昨今の厳しく複雑な安全保障環境下において、サプライチェーンが持つ地政学リスクについて把握する重要性が増している。・地政学リスク・サプライチェーンリスクについて詳細に把握するうえでは、リスクとなり得る特定品目や個社の貿易状況に着目したミクロ的アプローチが求められるが、その前提として、どの産業がどの国へ依存しているか、といった全体像を掴むことが有効となる。本稿では、オープンデータを用いてマクロ的な視点から日本における地政学リスク・サプライチェーンリスクについて分析した。・輸入額を元に他国への依存を計る場合は、最終輸入がどの国から行われたかの値しか見ることができず、サプライチェーン上の依存関係を見ることができない。サプライチェーン上における依存関係とは、直接 A 国からは輸入していないが、輸入する製品がほとんど A 国で製造されており、実質的に A 国へ依存しているケース(量的依存)や、直接 A 国からは輸入していないが、サプライチェーン上、頻繁にA 国の生産工程を経由しており、実質的に A 国へ依存しているケース(頻度的依存)である。(図表 1)・国際産業連関表を元に、量的集中リスクは TiVA、頻度的集中リスクは PTF を用いて分析を行った。(図表 2)・量的集中リスクの分析には、TiVA を用いる。TiVA は、産業連関上での各国を源泉とする付加価値金額を明らかにするものであり、サプライチェーン上における量的依存関係の実態を把握することができる。・TiVA を用いることで、企業による GVC 構築によって生産プロセスが国境を越えて分散化していく中においても、完成品に含まれる各国の貢献度を計測することが可能となる。また、貿易統計とは異なり、中間財貿易により輸出入が大幅に拡大しているように見える、といった統計上の問題を解消することができる。(図表 3)・頻度的集中リスクの分析には、PTF を用いる。PTF は、サプライチェーンの依存関係を示す指標として、ある製品のサプライチェーンにおいて特定国の特定産業部門がどの程度の「頻度」で登場するかという地理的集中リスクを示す指標であり、2019 年に提唱された概念である。国際産業連関表から、サプライチェーン上で特定産業部門が登場する回数を、全経路で加重平均することで計算される。(図表 4)・従来の集中度指標とは異なり、PTF は、ハイリスク国に対するサプライチェーンの連関構造を「頻度」という新たな分析次元から捉えることができる。PTF に関する値は 2024 年末より OECD により公式に公表されている。特徴付加価値貿易指標(TiVA;Trade in value - added)特定国の特定産業を源泉とする付加価値がどれくらい含まれているかを指標化したもの。通過頻度指標(PTF;Pass-through frequency)サプライチェーン上において特定国の特定産業が登場する回数について、全経路の加重平均をとることで指標化したもの。C 国日本D 国指標地政学リスク・サプライチェーン分断の評価

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