SPOT 18 ファイナンス 2025 Sep.*4) https://www.imes.boj.or.jp/jp/historical/pf/chapter3.pdfから、と聞きました。たしかに、どこに行っても銀行やコンビニの ATM でお金を下ろせるのは、誰かが物理的に紙幣を運んでいるからですよね。津田:現金は、日銀の受け入れ拠点から日銀の各支店まで、日銀の負担において輸送しています。その後の、日銀支店から各民間銀行の金庫への輸送は、それぞれの民間金融機関の負担ということですね。服部:貨幣のデザインなどを担当しているのは財務省ということですが、紙幣についてはどうなのでしょうか。津田:紙幣もデザインや様式は財務大臣が決めることとされています。学生:貨幣が財務省、紙幣が日銀というイメージはあったのですが、そもそもこれはなぜ分かれているのでしょうか。津田:単純に昔からそうだから、という説明になると思います。世界のほとんどの国でも、貨幣の発行権というのは政府、すなわち財務省に帰属しています。紙幣の発行権は中央銀行に帰属するというのも、多くの国に共通しています。*4明治時代も、最初は政府が太政官札という政府の紙幣を発行し、加えて金貨・銀貨で政府の貨幣も発行していました。ただ、当時の政府紙幣は、金や銀と交換できない不換紙幣として出しており、戦費の調達手段としての側面もありました。要は国債を発行して、その国債そのものが紙幣だと言っているのにかなり近い状態だったわけです。当時は、戦争だからたくさんお金が必要です。お金をたくさん発行した結果、インフレになってしまい、その時には、政府の紙幣と政府の発行する金貨が、同じ 1 円なのに、価格が実際には大きく違うということが起こりました。金に交換することが確保されてない紙幣は信用ならないということで、金貨と紙幣に価値のギャップが出てしまいました。これはまずいということで、きちんと兌換可能な、つまり金に交換できる裏付けのある紙幣を作ろうということになりました。その際、紙幣発行業務を民間に委託して、政府はそれを監督するという立場をとるのが望ましいとの観点から、当時のアメリカの制度にならって「国立銀行制度」という制度を一旦導入しました。アメリカは当時、FRB ができる前の段階でした。つまり、アメリカでは国や州ごとに規制された民間銀行が紙幣を発行できる状態だったのです。日本でこの方式を取ったところ、導入当初から世界的な金価格の高騰により、銀行券を金に交換する動きが発生したため、結局、兌換紙幣を諦め不換紙幣として発行を継続し、更に発行準備率を引き下げたため、銀行がどんどん紙幣を出すということになり、紙幣の供給量に歯止めが効かなくなってきてしまいました。これでは収集がつかないということで、そこでようやく、日銀という唯一の中央銀行を作ろうということになりました。政府の監督権限が強いベルギー国立銀行条例をモデルにして日本銀行条例を作り、1882 年に日銀ができました。当時の国内には金が不足していましたが銀は十分あったため、銀兌換券として日本銀行券を作りました。その後、日清戦争に勝利し、巨額の賠償金を得て、金が十分に蓄えられたので、金と交換する日本銀行券を発行し、ようやく日本は金本位制に移行したというのが明治時代の話です。ですから、なぜ貨幣が政府で紙幣が中央銀行という形に分かれているのかというと、そうした経路依存的な背景もあり、諸外国の例を参照して制度をつくったということもあるかもしれません。服部:つまり、日本は明治期に海外に学んで、まず米図表 3 主要国における銀行券,貨幣の発行主体(注) 1) 銀行券の発行権は,統治機構の一機関であり中央銀行組織の最高意思決定機関である連邦準備制度理事会に属するが,実際の銀行券の発行は,各地区の連邦準備銀行が行っている。(出所)日銀*42) ユーロエリア 17 か国(ドイツ,フランス,イタリア,ベルギー,オランダ,ルクセンブルク,オーストリア,スペイン,ポルトガル,フィンランド,アイルランド,ギリシャ,スロベニア,キプロス,マルタ,スロバキア,エストニア)においては,統一通貨ユーロを導入しており,銀行券の発行権は中央銀行組織の最高意思決定機関である欧州中央銀行理事会に属し,銀行券は各国中央銀行が発行している。3)国によって異なる。4) 英国では,歴史的経緯から,スコットランドおよび北アイルランドの各地方において一部例外がある。日本銀行設立の歴史銀 行 券発行主体日 本中央銀行中央銀行 1) 政 府米 国ユーロエリア 各国中央銀行2) 各国中央銀行,政府,民間 3) 各国政府英 国カ ナ ダ 中央銀行中央銀行 4) 民 間 4)民 間貨 幣製 造 者独立行政法人国 立 印 刷 局発行主体製 造 者独立行政法人造 幣 局政 府政 府政 府各国政府政 府政 府政 府政 府
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