SPOT ファイナンス 2025 Sep. 17者が納めるお金は、例えば、銀行預金から支払う場合、日銀の代理店業務を行う民間銀行を経由して、最終的には日銀の本店の、政府の持っている口座に着金するということになります。また予算とは、年度内にこれだけのお金を使っていいというものなので、その支出のタイミングが今日なのか明日なのかはわかりません。しかし、資金を管理する立場からすると、今日出るのか明日出るのかで全然意味が違いますよね。もし明日だったら、それに見合う税収がちょうど入ってくるから支払いができたのに、今日だったら手元にお金がないから払えない、といったことは起こりうるわけです。税金でも、例えば法人税は事業年度終了日の翌日から 2ヶ月以内に払うことになっているので、企業の決算期によって当然支払うタイミングが違います。それぞれの企業の利益も年度によって違うので、どのタイミングでどれだけの税収が入ってくるかはわからないということになります。このような資金の動き全体を、ある程度見通しを立てながら、ちゃんとお金が枯渇しないように管理することが、国庫管理の最もコアの業務になります。服部:多くの人々にとって、通貨というと、日銀の印象が強いと思います。しかし、いわゆるコインは政府が作っていますよね。まず、貨幣・紙幣に関する財務省の役割と、日銀の役割について聞かせていただけますでしょうか。津田:まず大前提として、通貨には「貨幣」と「紙幣」の二種類があります。「貨幣」とはコインのことで、「紙幣」とは、千円札とか一万円札といった紙のお札のことです。一般的には、貨幣という表現は、紙幣も含めて、現金全般の言い換えとして使う人もいると思います。しかし、我々国庫を担う人間にとっては、その 2 つを峻別する必要があり、実務上、貨幣と紙幣という言葉で分けて考えています。服部:日銀の文章などを見ても、貨幣と紙幣は分けて記載されていますね。そして、それらを含めた広い概念として、「お金」や「マネー」といった言い方が用いられています。津田:貨幣と紙幣が合わさると通貨になります。「通貨」は現金という言葉と同義ですが、通貨の方が、国等が発行した法貨という意味がより強まるかもしれません。そして、通貨に加え、民間金融機関の預金などを含めると「お金」や「マネー」になるというところでしょうか。人によっては、マネーという言葉に、例えばビットコインのような暗号資産なども含めるかもしれません。お金やマネーは最広義の言い方です。貨幣のことを硬貨と言うこともあります。硬貨はややカジュアルな印象がありますが、硬貨イコール貨幣とも言っていいと思います。また、これは豆知識の範疇だと思いますが、実際に貨幣を見ると、「日本国」と書いてあります。貨幣の発行者は日本国政府ということです。一方で、紙幣の方には「日本銀行券」と書いてあります。この点で、まず発行者が違う事がわかります。実際の製造の費用負担の話をすると、貨幣については財務省の国庫課が予算を計上し、それを貨幣製造費として造幣局に交付し、造幣局がそのお金を財源にして、実際に製造します。一方、紙幣の方は日銀の予算に計上し、国立印刷局というまた違う独立行政法人に交付して、製造させています。発行者が違うため、予算計上から製造までは違いが明確にありますが、その後の流通過程は同じです。実際の流通過程では、紙幣も貨幣も完成したら日銀に渡します。なぜならば、どちらも日銀を経由して、民間銀行に渡り、そこから窓口や ATM を使って、国民が紙幣や貨幣を受け取るという流通網を作っているからです。お金の動きは金融機関を経由するので、日銀に統一的に委ねているわけです。服部:日銀に支店が様々な場所にある一因として、紙幣を安全に各地域で取得できるようにする業務がある図表 2 貨幣の事例津田夏樹課長に聞く、日本の国庫制度(前編)(出所)財務省国庫課と通貨(貨幣・紙幣)
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