ファイナンス 2025年8月号 No.717
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連載PRI Open Campus5.財務総研が行う「研究会」の意義(6)今後の方向性図 14 日本の貿易建値通貨比率:輸入(対世界)(1980〜2024 年) 46 ファイナンス 2025 Aug.(出所)財務総合政策研究所(2025)『「日本企業の成長と内外の資金フローに関する研究会」報告書』指摘されました。資金調達方法の多様化という観点において、外国企業が日本の社債市場で資金調達するための工夫、社債発行手続きの簡素化などの規制緩和や、より格付けの低い社債でも取引可能なハイイールド市場の拡大などが必要と考えられます。最後に、貿易・国際金融における「円」需要の促進についてです。貿易における円建ての取引促進に向けて、輸出面では付加価値の高い製品に特化し、取引の優位性を上げることで、円建て輸出を増やすことが考えられます。加えて、輸入面では円取引が多い欧米の優良な顧客となり、日本の円建て輸入をさらに拡大させるべきであると示されました。金融面では、少なくとも当面は、米ドル基軸体制を補完できるよう、邦銀の海外向けドル建て貸付能力の拡大支援に注力するべきであり、そのためにも、経常収支黒字、日本国債の格付け維持、円の通貨価値の維持が必要であることが指摘されました。「財務省のシンクタンク」として財務総研の果たすべき役割は、「(1)財務省職員にとっての学習機会の提供」、「(2)次世代にとっての有用な「Asset(資産)」の構築」、「(3)新たな情報の探索・整理と発信」の 3 つに整理することができます。具体的な取組として、(1)については財政経済理論研修やランチミーティングなどのセミナー開催、(2)についてはフィナンシャル・レビューの刊行や人的ネットワークの構築などが行われていますが、研究会は 3 つの役割すべてに関わっています。研究会で得られた知見を報告書にまとめることは知的な「Asset(資産)」の構築であり、研究会を経て形成された人的ネットワークもまた、「Asset(資産)」です。加えて、研究会で得られた知見を「情報発信」することに努めており、研究会での議論を財務省内職員向けに共有することで「学習機会の提供」にもつながっています。財務総研は、「財務省のシンクタンク」として、外部有識者の知見もお借りしながら、政策の検討に貢献し得る成果を発信していきます。今後も財務総研の活動にご期待ください。1990 年以前の「民間発のキャッシュフロー」が主導これまでの現状整理を踏まえた上で、望ましい資金循環の姿として、日本企業が資金余剰主体から転換し、積極的な設備投資を行っていくことの必要性が示されました。バブル崩壊後、長期にわたり日本企業は資金余剰主体となっており、民需を公需で埋める対応が続き、「政府発のキャッシュフロー」が資金循環を主導してきました。銀行の貸出機能が毀損していない場合の財政乗数は小さいため、政府による累次の経済対策にかかわらず経済成長が低迷していたのは当然の帰結であり、日本経済の持続的な成長を実現させるためには、企業が必要な投資を行うために借入主体となるする経済に転換すべきであることが指摘されました。このような資金循環の姿を実現させるためには、以下が必要であると考えられます。まず、対内直接投資の拡大と日本企業の国内拠点の再構築です。研究会では、委員から、実質実効為替レートの減価が対内直接投資を促進するとの実証研究があることが紹介されました。円の実質実効為替レートが低下している局面で、アジア域内での日本の生産コストの比較優位性が向上していることを意味しており、こうした状況を機会として、国内投資が企業にとって利益につながる事業環境が求められます。次に、金融資本市場の機能強化です。日本の強みである、危機時にアジアに米ドルの流動性供給を行える立ち位置にあることを活用して「アジアのセーフティネットの中心」となることを目指すべきであることが

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