019804087654321連載PRI Open Campus(年)20民間企業の固定資本ストック形成1015(兆円、1996年からの累計増減額)対外投資額806040202000051997220200180160140120100-2020(2)対内直接投資と資金需要(3) TSMC を例に見る、対内直接投資と国内資金需要(4)金融資本市場の機能強化図 9 日本の対外投資額と民間企業の国内投資額の推移図 10 日本の期待成長率と賃上げ率の推移 44 ファイナンス 2025 Aug.(注)対外投資額は各年の対外直接投資額の残高から 96 年末時点の残高を差し引いたもの。民間企業の固定資本ストック形成は、各年の民間企業の固定資本ストック残高から 96 年末時点の残高を差し引いたもの。(出所)財務総合政策研究所(2025)『「日本企業の成長と内外の資金フローに関す(注 1)期待成長率は今後 5 年間の業界需要の実質成長率見通し。(上場企業に帯す(注 2)賃上げ率の対象は民間主要企業。(出所)財務総合政策研究所(2025)『「日本企業の成長と内外の資金フローに関する研究会」報告書』(%)るアンケート調査)る研究会」報告書』期待成長率生産年齢人口ピーク859095賃上げ率人口ピーク20000510151998年から1%台に突入2008年を境に0%台~1%台前半が慢性化に行われている中で、借入需要が増えておらず、対外投資は企業の内部資金によってファイナンスされていることを示唆しています。図 9 からも、2010 年代以降、日本企業の対外投資が急増していることがわかりますが、これは、前述した日本企業の「国内でのリスクテイクの弱さ」と「国外での積極的なリスクテイク」と整合的です。このような企業行動の背景として、研究会では日本の期待成長率の低下があることが指摘されました。図 10 で示されているとおり、1990 年代の生産年齢人口のピーク以降、期待成長率は 1%台に低下し、人口がピークアウトする 2008 年を境に 0~1%台前半で推移しています。すなわち、日本の成長期待の低下と表裏一体で日本企業の対外投資が増加しており、日本経済は今後成長しないため、日本より海外に投資した方が良いという考え方が広がったと推察されます。日本の対内直接投資の少なさも国内資金需要の弱さの 1 つの要因と考えられます。日本の対内直接投資は対外直接投資と比べて非常に小さく、対外直接投資の対内直接投資に対する比率を見ると、他の主要国が 1倍以下あるいは 1 倍前後であるのに対し、日本は 6.4倍となっています。対内直接投資が極端に小さいことで、結果的に海外企業による円の借入需要の少なさに結びついているものと考えられます。では、日本へ対内投資しているのはどのような企業であるのか、業種別の対日直接投資残高を見ると、金融・保険業が約 4 割を占めていますが、足元では製造業が伸びています。国・地域別について見ると、アジア、特に台湾からの投資が大きく増えており、これは、台湾の世界的な半導体メーカーである Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.(以下、「TSMC」)の熊本進出を背景としています。そこで、TSMC を例に、対内直接投資や国内資金需要を増やすためのヒントを探るべく、九州の地方銀行に対するヒアリングを実施しました。このヒアリングによると、TSMC の熊本進出の経済効果として、TSMC 自体による約 3 兆円の設備投資を含め、九州全体で 2021 年から 2030 年で合計 6 兆円以上の設備投資が見込まれています。資金需要の動向としては、TSMC サプライチェーンへの参入障壁が高いことから、日本の半導体企業への直接的な融資の機会は少ないものの、TSMC の工場周辺の不動産、物流、サービス業向けの資金需要は増加しています。また、TSMC 進出を契機として、サプライチェーン企業以外でも熊本に進出してきた台湾企業は多く、こうした企業からの資金需要増加にもつながっていることが明らかになりました。海外からの投資を呼び込むという観点からは、国内の資金規模だけではなく、資金調達方法の多様化も重要であることが指摘されました。5各種金融市場ランキングデータから、近年では東京
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