ファイナンス 2025年8月号 No.717
44/64

1.財務総研の「研究会」について2.なぜ資金循環に着目するのか 40 ファイナンス 2025 Aug.財務総合政策研究所 客員研究員(前 総務研究部 総務課長) 川本 敦総括主任研究官 伊藤 秀則主任研究官 片野 幹研究員 伊藤 菜々子家計の金融資産、企業の内部留保、日本の対外純資産、そして、政府の国債発行残高。―これらは全て金融資産あるいは負債のストックに関する数値ですが、いずれも過去最高を更新し続けていることが新聞記事などで報じられています。4 つのストックの計数は、それぞれ家計・企業・海外・政府に関する統計を基にしており、公表する部局や、公表のタイミングも異なるため、それぞれ独立した問題として切り離して捉えられることが多くなっています。他方で、金融資産・金融負債は、過去の金融取引の結果が蓄積されたストックであり、金融取引には必ず取引の相手方が存在します。家計資産としての預金は、銀行にとっては返済の義務がある負債であり、銀行が保有する国債は、国にとっては負債です。家計・企業・海外・政府の資産と負債は連関しており、また、資金の需要と供給は必ずイコールとなるため、家計消費や企業の国内投資を伸ばしたいならば、財政赤字を縮小するか、経常収支の黒字を縮小するしかありません。こうした部門間の資金の流れを念頭において日本経済の現状への理解を深めることが「資金循環」に着目する意義と考えられます。日本の資金循環は、1990 年代初頭のバブル崩壊以降、低成長に転じる局面で、政府は資金余剰から資金不足に、企業は資金不足から資金余剰に転換し、家計・企業の資金余剰と海外・政府の資金不足がバランスする構図になりました。特に、企業の資金余剰は、内部留保の増加額から国内での実物投資を差し引いた金額に相当しますが、バブル崩壊以降、「資金の受け手」である海外部門と政府部門に対して、企業が「資金の出し手」として資金を供給する構図が続いていま2023 年から 2025 年にかけて「日本経済と資金循環2024 年 5 月にかけて行われた「日本経済と資金循環財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)では、の構造変化に関する研究会」及び「日本企業の成長と内外の資金フローに関する研究会」を開催しました。これらの研究会では、家計・企業・海外・政府間の資金循環の特徴を明らかにしました。後者では特に「資金余剰主体としての日本企業」に焦点を当て、世界経済の成長を日本企業全体の安定的な成長に結びつける上で望ましい企業活動や、国内外の資金循環のあり方について考察を深めました。今回の PRI Open Campus では、過去 2 年間にわたり開催した研究会での議論を切り口として、日本の資金循環に関する研究についてご紹介します。財務総研の研究会では、有識者の方々に委員としてご参画いただき、約半年にわたり月 1 回程度、各委員からの報告や、ゲストスピーカーによる講演を通じてテーマに関する議論を深め、その成果を財務省や財務総研の公式見解としてではなく、執筆者個人の意見という位置付けで報告書として取りまとめています。直近では、日本経済の「資金循環」に着目した研究会を 2 年にわたり開催しました。2023 年 11 月からの構造変化に関する研究会」では、大学の研究者を中心に講演いただき、2024 年 11 月から 2025 年 4 月にかけて行われた「日本企業の成長と内外の資金フローに関する研究会」では、メガバンクや地方銀行の方にもゲストスピーカーとして参加していただくことで、実務の目線を取り入れつつ資金循環について議論を重ねました。日本の資金循環に関する研究46PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~連載PRI Open Campus

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る