ファイナンス 2025年8月号 No.717
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SPOT 24 ファイナンス 2025 Aug.スクが管理・コントロールできるのであれば、銀行の業務範囲をもっと広げてもよいのではないかという議論があります。特に、地方銀行を念頭に置いた場合、地元の企業に適切なファイナンスを提供しなければならない場面で、デット(負債)だけで本当に十分なのかという疑問があります。場合によってはエクイティ(株式)を提供する必要も出てくるでしょう。しかし、これまで銀行が株を持つことには厳しい制限がありました。一定のケースを除いて、5% 以上の株式を保有することはできず、例外として認められていたのは、事業再生、事業承継、ベンチャー投資の三つの類型だけでした。これを金融庁は長年の検討を踏まえ、2021 年に銀行法を改正し、銀行業高度化等会社という枠組みが拡充されました。これにより、地域経済の活性化の観点から、地銀が地域総合商社を作ったり、ファブレス商社を立ち上げたり、地域の DX 支援のための会社や再生可能エネルギー会社、広告代理店等を設立することが可能になりました。私は当時監督局の銀行二課長(地銀担当)を務めており、この規制緩和に関わっていました。基本的には企画部門の同僚が法制面で検討をしてくれたのですが、監督部門からも、投資専門子会社がコンサルティング業務も併せて営めるようになると事実上 PE(プライベートエクイティ)ファンドと同じ機能が持てるのではないか等いくつかの提案をしました。そうした提案ができるのは、地銀の経営層と意見交換する中で、現場レベルでの課題を把握しているからでもあります。また、改正法が施行され、実際に案件の相談を受ける段になると、関係者が真面目にヒアリングを行い、細かく確認をしていますが、ここで問題になるのは、必要以上に審査プロセスに非常に時間がかかることでした。地方銀行が新規業務を始めようと思ったら、まずは各県にある財務事務所に相談を持ち込むのが通例でした。例えば、再生可能エネルギー会社を地銀で初めて設立した山陰合同銀行の場合、最初の相談先は松江の財務事務所になります。しかし、松江の財務事務所では再生可能エネルギー会社の認可をした前例がないため、とりあえずは一通りヒアリングを行った上で、次に広島の中国財務局に案件を送付します。しかし、中国財務局でも、管内の地銀に前例があれば即答できますが、そうでなければ判断が難しいため再度ヒアリングを行った上で、最終的に東京の金融庁に案件が回ってくるわけです。そのころには、最初に書類が提出されてから 1 年経っているというケースもかつては珍しくありませんでした。実際に事例が集積されるのは東京の金融庁なので、現場に判断をさせるのはある意味で極めて非効率なプロセスです。この状況を改善するため、コロナ禍を機にリモート対応を導入しました。具体的には、地銀から相談が来たらすぐに東京に案件を上げるよう指示しました。その上で、地銀・財務事務所・財務局・金融庁の担当者がリモートで同時に協議できる体制を構築しました。これにより、同じことを何度もヒアリングする無駄を省くとともに、過去の類似事例や検討すべき論点を即時に共有できるようになり、審査スピードが大幅に向上しました。また、こうした認可申請に対し、監督部門として何をチェックすべきなのかについても考え方を整理しまし た。 金 融 庁 も 財 務 局 も、 銀 行 業 務 の 監 督 は プ ロフェッショナルですが、例えば再生可能エネルギー会社を監督したことはなく、資源エネルギー庁と違ってその分野の知見はありません。しかし、それでも金融庁が再生可能エネルギー会社を子会社として認可をするということは、どのような視点を持つべきなのかという点を明確化しました。重要なのは、「その子会社がつぶれないようすべてを完璧にチェックすること」ではなく、「リスクが許容範囲内であるなど、必要なことが行内で取締役会等まであげて検討されているかどうかを確認すること」です。例えば、地銀が子会社を設立する際には、その要件として、仮にその事業が失敗しても銀行の経営に影響が出ないことが求められています。つまり、「最悪の場合は倒産しても銀行の健全性には問題がない」ということです。これは、銀行にとっても「失敗できる環境」を提供するものであり、金融庁としては、「利益相反などのリスクを整理すれば、必要以上に細かいヒアリングをする必要はない」という方針を打ち出しました。結果として、審査期間は従来の 1 年から約 2ヶ月程度に短縮され、銀行による新規事業の立ち上げがスムーズに進むようになり、認可の件数も 60 件近く

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