ファイナンス 2025年8月号 No.717
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SPOT 金融庁で働くことについて新発田龍史 審議官に聞く、金融庁の過去と現在(後編)ファイナンス 2025 Aug. 21ことがある人はまだまだ少ないです。もちろん、全員が同じ経験をする必要はないと思いますが、地方経済と金融の関係を実感として分かっている人材は一定程度必要だと思います。最近では、地方自治体との人事交流も増えてきており、例えば、国際金融都市を推進する東京都や、金融・資産運用特区に指定された札幌市に中堅職員が出向し、サステナブルファイナンスの推進等に携わることで培った知見を活用して活躍している例もあります。服部:地方金融機関の検査については、一定程度、財務局に任せている部分もありますよね。新発田:「地域金融機関」と一括りにされていますが、日本全国には、地銀が 100 近く、信金が約 250、信組が 150 弱近く存在しています。それぞれの取引先は、地域でバリューチェーンのネットワークを構成しています。そうした意味で、一つ一つの地域金融機関を点として捉えるだけではなく、地域経済と一体となった面として捉えることができる財務局がモニタリングを行うというのは、本庁のリソース制約という事情はさておき、一定の合理性があると思います。もちろん、各地で検査の質がバラバラでよいということはなく、集合研修等の実施により、全国的な質の向上に、本庁の果たす役割は大変重要だと思います。服部:金融庁、そして他の中央省庁では中途も含め、リクルートを積極化している印象です。一方で霞が関の不人気が報道されることが増えてきた気がします。今の学生や転職を考えている人にとって、金融庁に入ることについてどう思いますか。新発田:私個人は大学卒業後国家公務員としてずっと働いてきたので贔屓目が入っているのかもしれませんが、新卒でも中途でも国家公務員は魅力ある仕事だと思いますし、その中で、一人ひとりの国民が幸せになるために、金融の機能を最大限活用して、日本の経済をより良くする政策を考え続けられるというのは金融官僚冥利に尽きると思います。学生:私のゼミの先輩が金融庁に行かれていて、OB会などでお会いする機会がありましたが、その方は、楽しそうに仕事をされている印象でした。新発田:やはり「之を好む者は之を楽しむ者に如かず」なんだと思いますね。一方で、私たち国家公務員は、辞令一枚で比較的短期間でポストを異動することが少なくなく、その中でやりがいを見つけたり、専門性を高めたりするのは難しいのではないかというイメージを持たれがちです。まずは目の前の与えられた仕事に全力を尽くすことが大事ですが、だからといって自分のキャリアをどう形成していくのかということに関し受け身になる必要はないと思います。ただ、そのためには、自分の強みややりたいことを考えていくことが大切です。また、何をキャリアの軸にするのかを意識することも重要だと思います。例えば、私自身の経験でいえば、金融庁の部門という切り口で見ると、企画、監督、官房それぞれ同じくらい在籍しているので、まだ経験していない分野もありますが、逆に何か特定の分野に専門性や強みがあるとは正直思っていません。その一方で、これまで監督業務を経験し、協同組織である信用金庫や信用組合、相互会社である生保、株式会社である損保等、そして銀行はメガバンクから非上場の地方銀行まで、様々な組織形態の金融機関の経営を見てきたことが、ケーススタディとして自分の中に蓄積され、現在担当しているコーポレートガバナンスや企業開示に関する政策を考えるうえでも実践知として役立っていることを実感します。また、足元で人的資本経営やその開示に関する施策を担当していると、金融庁の採用や組織文化の変革を組織内で自ら担当した経験が役立っていることに気づきます。金融機関の監督業務でも、かつてのようにバランスシートの健全性ばかり見ているだけでは不十分だと気づかされます。将来の収益力に大きく影響するのは人的資本ですが、採用に苦戦するだけでなく、離職率も高まる中で、価値創造の源泉である人材面でのボトルネックが明らかになっています。このような状況を打開するためには、金融機関が魅力的な職場になることが必要です。例えば、女性が活躍しやすい環境を作る、中途採用を積極的に進めるなど、人材面の改革も重要になってきます。結果的には新卒男性を中心とする年功序列の仕組みからなる「昭和の人事モデル」のオーバーホールが不可避だと思います。実際、金融機関の経営層と対話するときも、金

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