ファイナンス 2025年7月号 No.716
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連載PRI Open Campus 月額上限-負担割合10%10%10%10%¥44,000 (注 2)¥57,600 (注 2,3)¥57,600 (注 2,3)(注 1)所得区分により異なる。例えば、標準報酬月額 28~50 万円の場合、80,100 円+(総医療費- 267,000 円)× 1% となっている。(注 2)外来について、個人ごとに、12,000 円(2017 年 7 月まで)、14,000 円(2018 年 7 月まで)、18,000 円(2018 年 8 月から)の各月の上限が設定されている。(注 3)過去 12 か月に 3 回以上上限額に達した場合は、4 回目から上限額が 44,000 円となる。(出所)古村ほか(2020)1944 年 3 月以前生まれ月額上限負担割合10%10%10%10%¥44,000 (注 2)¥44,000 (注 2)¥57,600 (注 2,3)¥57,600 (注 2,3)70~74 歳1944 年 4 月以降生まれ月額上限負担割合-20%20%20%75 歳以上月額上限¥44,000 (注 2)¥44,000 (注 2)¥57,600 (注 2,3)¥57,600 (注 2,3)ファイナンス 2025 Jul. 8970 歳未満負担割合30%30%30%30%2008年4月2014年4月2017年8月2018年8月(注 1)*2) なお、2022 年 10 月より、75 歳以上の高齢者で一定の所得がある者については、2 割負担となった。*3) 田中(2015)p.216表 1 医療費の自己負担割合(一般所得者)に関わらず、原則として 1 割負担とされた*2(表 1)。つまり、1944 年 4 月を基準として、その直前と直後に生まれたグループは、年齢や健康状態、就業状態が平均的にはほぼ同一であり、自己負担割合「のみ」が異なると考えられる。また、生年月は外生的(自身がどちらのグループに含まれるかを恣意的に選択することが困難)であり、ランダムに近いグループ分けになっていると想定できる。そこで、本研究では、この制度改正に着目し、自己負担割合の引き上げに対する人々の動学的な反応を実証的に分析することとした。本研究に用いるデータは慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター「日本家計パネル調査(JHPS)」(以下、慶應パネル)の個票データである。本データからは、調査対象の各個人について、1 年間の自己負担の総額しか分からないため、この金額を自己負担割合で除して、(自己負担と保険給付を足し合わせた 10割分の)医療費を推計する作業を行った。また、現役並み所得者(70 歳以上であっても 3 割負担が適用される)、高額療養費制度の利用者(月間の自己負担額が上限に達しており、それ以上負担額が増えない)、生活保護受給者(自己負担がゼロ)といった、標準的な自己負担割合が適用されない者については、注意深く除外した上で分析を行っており、先行研究よりも精緻な標本になっている。本研究では、Komura and Bessho(2025)にならい、70 歳・75 歳での負担割合の変化を利用した差の差推定(age difference-in-difference(年齢 DID))を行った。差の差推定とは、「時間を通じた変化(差)が、政策導入の有無によって異なる(差がある)かを見ることで、政策の効果を調べる方法」である*3。本研究における差の差推定のイメージを図 1に示している。70~74 歳の自己負担割合のみが異なる 2 つのグループ(対照群と処置群)において、70 歳になると自己負担割合が 3 割からそれぞれ 2 割・1 割に下がるため、医療費の変化(差)が見られる。さらにその差が、2 割と1 割のグループでどれだけ異なるかを見ることで、政策導入の効果だけを取り出して分析することができる。実際に、慶應パネルを使用して、各年齢での医療受診の有無と医療費の平均値を、1944 年 3 月以前生まれ(対照群)と 4 月以降生まれ(処置群)のそれぞれについてプロットしたものを図 2、図 3 に示す。図 2 の医療受診の有無とは、「あなたは、昨年 1 年間に、病気やけがの治療のために費用をかけましたか(≒医療機関を受診しましたか)」という質問に対して「あり」と答えた者を 1、「なし」と答えた者を 0 として、年齢ごとに平均値を取ったものである。図 2 を見ると、医療受診の有無は全体として右肩上がりに推移している。自己負担割合は対照群では 70 歳、処置群では 70 歳と 75 歳で低下しているが、それぞれの年齢でのトレンドの変化等は見られない。図 3 の医療費も全体として右肩上がりであり、対照群の医療費は自己負担割合が 1 割に下がった 70 歳以降大幅に増加し、72 歳でピークを迎えたのち安定して推移している一方、処置群の医療費は、自己負担割合が2 割に下がった 70 歳から 71 歳にかけて増加しているが、その増加幅は対照群ほどではない。また、処置群PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 452.研究内容2 . 1 使用データ2 . 2 識別戦略

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