ファイナンス 2025年7月号 No.716
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連載セミナー 令和 7 年度職員トップセミナー講師略歴1981 年 東京大学理学部情報科学科卒業1986 年 同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了 工学博士1986 年 通産省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所2000 年 公立はこだて未来大学システム情報科学部教授2020 年 東京大学次世代知能科学研究センター教授2024 年 京都橘大学工学部情報工学科教授 現在に至る元人工知能学会会長、元観光情報学会会長、前情報処理学会副会長著書に「鉄腕アトムは実現できるか」、「AI に心は宿るのか」などす。ファンから見てもレベルの高い将棋が見られるので楽しいと思います。まず、道具としての AI が人間を助けるということ、次に AI によって人間も変わるということです。将棋の例でお分かりのように、賢い道具として AIを使うことで、人間がさらに成長できることを示していると思いますし、だから AI は社会の多様性確保のための要素の一つなのです。一方で、将棋界と AI との間にかつて軋轢があったように、これからいろいろな分野で AI が進歩していくと、AI を受け入れたくないという軋轢が生まれてくることでしょう。人間の本能として、自分が大事だと思っているもの、自分が仕事の材料にしているものが、自分以外のものにもできるようになるというのは、尊厳を冒される、存在が脅かされるという気持ちになるのは当然なのです。今、生成 AI 関係でいくつも SNS が炎上していますけれど、過渡期でやむを得ないかなと思う側面もあります。だから人間が新しいものを受け入れるには、ちょっと時間が必要なのかなと思います。「広い心で AI とも付き合おう」とはそういう意味なのです。スマートフォンを持っている人間は、電話番号にしても、漢字を書くにしても、スマートフォンに結構情報を任せていますよね。また、出張時においしいものを食べようと、関連するサイトをつい覗いてしまう、というように意思決定のかなりの部分をスマートフォンに任せているという実情もあります。確かに、人間がますます思考しなくなるんじゃないかとか、いろいろと問題はあって、考えなければいけないことは山積しています。でも、それがないよりは能力は上がっているはずなので、それでいい、それを良しとしようと考えて、人間という概念をアップデートしてみる。単独としての人間から、AI 機器を含めた存在としての人間になる、すなわち、将来的には「人間+スマホ(の延長線上のようなもの)」が新たな人間という概念になっていくのではないか、世の中の流れとしてはそういう方向に進むのではないか、と思っております。ご清聴ありがとうございました。松原 仁(まつばら ひとし)京都橘大学工学部情報工学科 教授これからの人間と AI の関係人間という概念ファイナンス 2025 Jul. 87

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