連載セミナーめ、その分野の最先端である NVIDIA という会社から高価な GPU(Graphics Processing Unit)を OpenAI社が買い上げるという構図ができているのです。DeepSeek の発表直後に NVIDIA の株価が大暴落したのは、「NVIDIA の GPU がなくても高性能な生成 AIを作ることができるじゃないか」ということが原因です。生成 AI がすごく安価で作れるようになったことは画期的なことだと思いますし、お金のない組織にもチャンスがあるということです。今、DeepSeek のやり方で日本も追従しようとしています。今では言葉だけではなく、画像や音声も生成 AI で扱えます。OpenAI 社の o1 などはそうです。もともと生成 AI は、何を聞かれてもそれなりに答える万能型だったのですけれど、今では医療や法律など分野を限ったものを作ろうという話があります。質の良いデータ、医療の正しい知識のデータだけ集めればいいし、医療だけだったら開発にそれほどお金もかからない、著作権についても文句を言われる前にデータ提供者に許可を取ってしまおう、という流れになっております。大きい会社や自治体、国などの組織では、情報漏洩が問題になることがあります。プロンプトに企業秘密を入力すると、それが学習に使われて、回りまわって社外の人に使われてしまうのではないかと危惧されるのです。それを使われないようにする技術的なテクニックもあるのですけれど、外のネットワークから離して、組織内だけでその生成 AI を使えばよいのです。組織の一番大事な情報を入れることで一番詳しくなってくれます。そうすれば組織として非常に使いやすい生成 AI ができて、外に出さない限り秘密も守れる、ということになるのです。OpenAI 社がやっているような巨大型に対して、コンパクト型と呼ばれています。OpenAI 社のスポンサーに Microsoft がついているので、遅かれ早かれ、Word や Excel に生成 AI が標準装備されると思います。今後は Excel でも Word でも生成 AI から書き方を提案されるようになることが普通になり、本人からすると、生成 AI を使っているか否かを意識することがなくなってくると思います。私は将棋の AI の研究を、AI がとても弱い時からやってきました。今はご存知のとおり AI の方が強くなりましたが、AI が人間の実力に追いついた頃の2000 年代後半から 2010 年代半ばぐらいまでの間は、かなり軋轢がありました。「プロ棋士がコンピューターごときに負けることがあればプロ棋士の尊厳に関わる」、「AI が勝つようになるとプロ組織は存続できるのだろうか」などと、プロ棋士や将棋ファンが AIに対して反感を抱くようになったのです。しかし AI の実力がプロ棋士を超えたので、軋轢はなくなりました。今ではプロ棋士や将棋ファンは AIで勉強しています。とても良い関係にあると思います。例としてプロ棋士の藤井聡太さんと永瀬拓矢さんのタイトル戦をご紹介します。これが結構面白いなと思ったのは、お互い AI で予習してから対局に臨んでいるのです。75 手目までは定跡通りです。このままいくと、先手の藤井さんが勝つということは、AI がほぼ解明してしまっています。後手の永瀬さんはどこかで変えないといけない。そこで永瀬さんは定跡を外れる九五歩を打ったのです。永瀬さんとしては「藤井さん、この先はあなた読んでないでしょ。私はこの先を勉強したのですよ」という気持ちです。さらに 80 手目で永瀬さんは八四桂馬を打って、銀取りになっています。銀を取るとそれが王手になっているので、藤井さんは一見ピンチです。ほとんどの人は銀をどこかに逃がさないといけないと考えます。ところが藤井さんは全然逃げずに四六香と打って攻め、藤井さんが勝つのです。永瀬さんはすごくショックだったと思います。自分が途中で間違えたならともかく、思ったとおりに進んで、気が付いてみたら負けの局面だったのです。AI には選べても、人間なら怖くて選べない将棋の指し手があるのですが、藤井さんはそうした「肉を切らせて骨を断つ」という将棋の指し方をして、すれすれのところで勝つのです。だから強いのだと思います。今、藤井さんを含めてプロ棋士は、皆さん AI で勉強しており、10 年前のプロ棋士より強くなっていま将棋における人間と AI の関係 86 ファイナンス 2025 Jul.今後の生成 AI
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