ファイナンス 2025年7月号 No.716
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連載セミナー 令和 7 年度職員トップセミナータクシーが実用化されております。乗った人の話では、ブレーキを踏むタイミングが人間と違うため、最初はちょっと怖いとのことです。人間は早めにブレーキを踏みがちですが、AI は安全に停止できるぎりぎりまで踏まないということがあるようです。株取引についても証券会社が AI を使っております。過去のデータを大量に AI に入れて、過去の同じような状況の時に、どこの株が上がった、下がったということをみて売買を判断しているようです。創薬にはすごくお金がかかるので、AI でシミュレーションして、コストを下げております。化学では AlphaFold というシステムが注目されています。専門家に言わせると、タンパク質の立体構造が薬効に影響があるということですが、このシステムではすごく早く正確にタンパク質の構造予測を行います。この研究が 2024 年にノーベル化学賞を受賞しました。先ほど申し上げたように、AI はたくさんのデータから学習しているので、データが多い領域では強いのです。だから定型的な、標準的な作業は得意です。標準レベルというのは、実例が一番多いので学習しやすいわけです。一方、トップレベルの人のやっていることを学習させようとなると、データが少ないので、AI では一筋縄ではいかなくなります。今の生成 AI もあれだけ流暢に答えていますが、文章の意味は全く分かってないのです。我々は生成 AIがどういうアルゴリズムで動いているか知っているので、断言できます。意味が分からないのに、あれだけ流暢に意味が通じているようなことを言うことが、あの技術のすごいところです。AI はルールが明確なものが得意です。だからゲームに強いのです。範囲が限定されているものも強いです。でも、世の中の多くの問題はルールが不明確で範囲が非限定です。AI の最先端はルールが不明確、範囲が非限定なものをうまく解こうとしているのですが、人間の専門家にまだ劣るところが多いと思います。AI は理性的なことが得意です。感性的なことはまだ苦手なのですが、生成 AI などは今、小説モドキを書き始めているし、絵も画像も描いているので、そろそろ感性的なこともできるようになりつつあります。今から 5 年前になりますが、「Tezuka2020」というプロジェクトに参画しました。手塚治虫さんがもし生きていたらどんな漫画を描くだろうか、それを現代に蘇らせようとするプロジェクトです。手塚プロが一緒に参加したので、手塚さんの作品に関する著作権の問題はないということで、鉄腕アトムやいろいろな作品のシナリオを入れて新作の候補を生成しました。「ぱいどん」という漫画になり、発表されたのですけれども、生成 AI はまだなかったので、AI の果たした役割は 1 割程度にとどまりました。2023 年 の 経 済 産 業 省 関 係 の 研 究 プ ロ ジ ェ ク ト「TEZUKA2023」では、手塚治虫さんの「ブラックジャック」の新作を作ることになり、これも手塚プロと組みます。これは生成 AI を利用したので、3 割ぐらいは AI が貢献できたかなと思っています。2022 年 11 月に ChatGPT がリリース(公開)されました。言語生成 AI の代表格です。OpenAI というアメリカの会社が開発したものです。GPT というのは技術の名前です。G は“generative”すなわち「生成」、P は“pretrained”すなわち「事人工知能が得意なこと、苦手なこと言語生成 AI、ChatGPT の登場ファイナンス 2025 Jul. 834.株取引5.創薬・化学1.定型的・標準的作業は得意2.“意味”は理解できない3. ルールが明確なこと、範囲が限定されていることは得意4.理性的なことは得意AI で蘇る手塚治虫(Tezuka2020 とTEZUKA2023)

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