ファイナンス 2025年7月号 No.716
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連載セミナー2 回目の冬の時代の最中の 2006 年に、“ディープラーニング”という、今の AI ブームの基礎になっている技術をジェフリー・ヒントンというカナダのトロント大学の先生が開発しました。我々専門家の間ではすぐ話題になったのですけれど、一般に使われるようになったのは 2010 年代です。すごくいろいろなことができるというので、3 回目のブームになりました。3 回目のブームから 10 年経ち、そろそろ落ち着くかと思いきや、生成 AI が 2022 年に出てきて、また大騒ぎになり、現在に至っております。2024 年にノーベル物理学賞を受賞したことでジェフリー・ヒントンの名前はご存じかと思います。彼は 1980 年代の 2 回目の AI ブームの時から研究している人で、その時にニューラルネットワークという当時の技術としては画期的な、今のディープラーニングの原型のようなものを作りました。そのことがノーベル物理学賞の受賞理由に書かれていますが、AI 研究者は皆「今のディープラーニングの隆盛に貢献したこと」が実質的な受賞理由だと思っています。ディープラーニングは 2006 年にヒントンがゼロから思いついたというよりは、1950 年代、AI が始まった時からその源流がありました。人間には数百億個の神経細胞があると言われており、シナプスという線で結ばれて、複雑なネットワークを頭の中に形成しています。それが知能の源泉なわけです。それなら、そういうネットワークをコンピューター上にシミュレーションすれば、コンピューターは賢くなるはずです。これは別にすごいアイディアではなく、誰でも思いつくものですので、AI が始まった頃から既にある考え方です。でもコンピューターの能力が貧弱だったので、すごく簡単なシミュレーションしかできず、最初はパーセプトロンであり、少しコンピューターの性能が良くなってから開発されたのがニューラルネットワークでした。今回のディープラーニングはこれらの拡張版です。パーセプトロンやニューラルネットワークに比べて、シミュレーションのネットワークの層が厚くなったという意味で「ディープ」なのです。ディープラーニングは、人の顔の認識とか、人が話したことの認識とか、パターン認識が得意です。今は、自然言語処理も扱います。「ディープラーニングは何をやっているのか」というと、簡単に言うと、たくさんのデータから傾向を適切に見いだすことができるのです。だからディープラーニングは優秀ですが、データがたくさん必要です。ディープラーニングは「パフォーマンスは良いけれど、なぜその答えになったのかが分からない」とよく言われます。すごく複雑なネットワークなので、人間が解析できないわけです。例えば、囲碁でいい手を打ちますが、何がどう計算されて、その手になったかが分からないのです。これは大きな欠点なので、説明可能 AI という分野が世界中で盛んに研究されており、ある程度は説明できるようになってきています。人の顔の認識が人間の精度を超えつつあります。今、税関においてもパスポートと顔が一致しているかを先ず AI が見て、AI が怪しいと判断すると、税関職員に伝えて、別室に連れていかれる、そういう風になっているようです。オンライン会議などの文字起こしもかなりの精度でできるようになっています。翻訳も同時にできるようになっており、外国人が参加している会議で、日本人が話したことを英語で画面の下に出し、外国人が話したことを日本語で画面の下に出すことが、だいたいリアルタイムでできるようになっています。自動運転についても、アメリカや中国では自動運転ディープラーニングとは最近の AI 技術の進展 82 ファイナンス 2025 Jul.4.3 回目の AI ブーム(2010 年代〜)1.2006 年にヒントンが提唱2.ディープラーニングの特徴・問題点1.個人認証2.会議の(音声)記録3.自動運転

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