連載セミナー 令和 7 年度職員トップセミナーんなのはできて当たり前で、かな漢字変換を AI と言う人はもう誰もいなくなっています。それは AI の技術が進歩したためです。そういうことからすると、今 AI と言われてもてはやされているものも、将来 AI と言われなくなる可能性はあると思います。人工知能(AI)の歴史は、ほかの学問分野と違って、非常に短いです。AI はコンピューターを使っていますので、AI の歴史はコンピューター発明以降ということになります。1940 年代、第二次世界大戦の末期に、イギリスやアメリカが主に戦争目的で、例えば、ミサイルを動く目標に命中させるには何度の角度でどれくらいの速度であればよいのかなど、数値計算を早く行うために、コンピューターが発明されました。人間は内省すると、頭の中で概念や言葉を「ああでもない、こうでもない」と考えているという印象があります。そこで、コンピューターは数値計算だけでなく、記号も扱えるのではないか、例えば言葉や概念のようなものをコンピューターで扱えるなら、人間のように賢いことが考えられるのではないかと、1950 年頃にイギリスやアメリカで新しい分野として研究が始まりました。最初の頃は名前がなかったのですけれど、1956 年にジョン・マッカーシーというアメリカの AI 研究のパイオニアの一人が「この分野を Artificial Intelligence (AI)と呼ぶことにしよう」と提唱し、この呼び方がシンプルでキャッチーだったということもあって、今も使われています。最初の AI はアメリカとヨーロッパにおいて、すごい予算をつけて研究者を集めて、盛んに研究されました。しかし、当時はコンピューターの能力を過大評価しておりました。当時のコンピューターは能力が低く、世界最高のコンピューターでも皆さんがお持ちのスマートフォン1台よりもはるかに能力が低いものでした。それと同時に、人間の能力を過小評価していました。先ほど知能の例として自然言語処理、画像認識、音声認識と申し上げました。例えば、日本語を話すとか、聞いて分かるというのは、日本語を母国語にする人にとってはほぼ苦労がありません。難しい話ならともかく、世間話であれば、自分自身、何で分かっているのかもよく分からないけれど、分かります。聞き流していても分かるのです。画像認識もそうです。ペットボトルを見て、なぜペットボトルと分かるのか、そう聞かれても説明のしようがないですよね。だって、ペットボトルでしょう、みたいなことになります。AI のテーマの多くは「人間がなぜそれをうまくできているかが分かっていないこと」なのです。人 間 に と っ て は 無 造 作 に で き る こ と で も、 コ ンピューターにとっては「どれも非常に難しい」ということが 1 回目のブームの時に分かりました。それが成果といえば成果なのですけれど、役に立つものはほとんどできなかったという意味ではやっぱり失敗なので、研究費を削られ、研究者も少なくなり、1 回目のブームの後、すごく厳しい「冬の時代」となりました。時は“エキスパートシステム”という専門家の代わりをするシステム、特に医療診断におけるシステムが注目されました。内科の患者のデータを入力すると、病名を推定し、適切な薬を処方するシステムでは、その分野の専門の先生よりは劣るが、若い先生よりは成績が良いという結果が出たのです。そこで医療だけではなく、法律や金融などいろいろな分野にこのシステムを活用しようという動きが世界中で盛り上がりました。この頃は、日本の景気がよかったので日本が一番研究費をかけたのですが、残念だったのは、当時のコンピューターの能力が今のようなレベルに達していなかったということです。このときうまくいけば、AI は日本の天下だったと思うのですけれど、優秀な専門家のレベルに到達できないのでは使い物にならないということで、また冬の時代に入ります。3.2回目のAIブーム(1980年代〜1990年代)1980 年代になって 2 回目のブームが来ます。この人工知能(AI)の歴史ファイナンス 2025 Jul. 811.1940 年代 コンピューターの発明2. 人工知能研究のスタートと1回目のAIブーム(1950 年代〜1960 年代)
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