海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー *14) 2025 年 4 月の IMF レポートでは、総額は約 125 億ドルになるとされています。多くのアルゼンチン人が国内金融システムの外に資産を持つことを選好することに加えて、金融機関への預金も多くが国債や中銀債の引き受けに使われて民間部門への貸し付けに十分に回らないなど、金融仲介機能が十分に作用していない状況になっていました。しかし、未申告資産の取り込みに加えて、準備金制度の合理化や金利制限の撤廃といった金融機関の規制緩和の結果、貸付先が公的部門から民間分野にシフトしており、直近では月次経済活動指数や四半期 GDP における金融分野の伸びが顕著になっています。また、海外投資家も経済安定化計画を評価しているようで、政権交代以降カントリーリスクが大幅に改善します。2025 年 5 月には、7 年ぶりに非居住者も対象とした国債入札によって 10 億ドルの資金調達に成功しました。RIGI(大型投資奨励制度)に対して、欧米の資源メジャーや中韓印の資源開発会社が相次いで関心を表明しており、2025 年 6 月までに 11 件の申請があったとされ*14、このうち太陽光、パイプライン、LNG、リチウムの 4 件が承認されました。公共事業を縮小する中でも、資源・エネルギー分野の開発は優先順位をつけつつ民間企業も巻き込みながら進めており、エネルギー収支も黒字となって外貨獲得にも貢献しています。前節で述べたように短期間で多くの成果を実現していますが、ここでは、今後の中長期的な安定・成長の観点から、どういった点がポイントになるのかについて取り上げようと思います。足元でも各種経済指標は堅調で、2025 年は実質GDP 成長率が 5%になると見込まれていますが、干ばつや緊縮財政からの反動という側面もあり、この成長トレンドをどこまで持続可能にできるかがポイントとなっています。現政権は、豊富なエネルギー・鉱物資源を活かして外国からの投資を呼び込むことで経済成長を目指しており、その土壌は整いつつあると言えます。当館を訪問する日系企業の出張者の数も格段に増えていて、関心の高さを日々実感します。他方、外貨・為替規制が大幅に緩和されたとはいえ、政権交代前の輸入債務の支払いには依然として制約があります。また、カントリーリスクも減少していますが、南米の近隣諸国と比べると依然として高い状況にあります。更なる外貨準備の積み増し等によって、こうした課題をどのように解消していくかがカギとなりそうです。政権発足後に様々な改革を行ってきましたが、税制、労働市場、年金といった分野では依然として課題が残っており、IMF と合意したプログラムにおいても長期的に取り組んでいく事項とされています。賃金や年金が同様の新興国と比べて高かったり、あるいは細々とした税金が多々導入され市場機能が歪められているといった指摘も度々耳にします。現在行っている改革をどこまで深化できるのかも今後のポイントになるでしょう。ミレイ政権は議会で少数与党であるため、多くの施策が行政府の必要緊急大統領令または政令によって進められてきました。短期間で大きな成果を挙げてはいますが、他方でこの改革を深化させ持続可能なものとするためには、やはり議会での議席を増やすことも重要になります。この点、今年 10 月には議会の中間選挙が行われ、ここでどこまで議席を増やすことができるかに注目が集まっています。これまでの政権への失望感の裏返しもあってか、国民に苦労を強いる政策を実行している割には支持率が比較的高い状況になっており、本年5月に実施されたブエノスアイレス市議会選挙でもミレイ大統領率いるLLAが大きく議席を伸ばす結果となりました。ファイナンス 2025 Jul. 77(2)改革の深化(3)政治的安定(4)金融機能の回復(5)エネルギー・鉱業での投資呼び込み(1)成長トレンドの維持 7 7 今後のポイント
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