(出所)IMF DataMapper財政収支(対 GDP 比)の推移(%)420-2-4-6-8-102006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー た人材を登用します。また 2024 年 7 月には新設の国家規制撤廃・変革省の大臣にハーバード大学で教鞭をとっていたスツルツェネッガー氏を任命します。彼らはマクリ政権でも経済運営に関わっていて、当時の経験も踏まえた政策を実施していきます。その取り組みを、いくつかの切り口から見ていきます。発足以来、ミレイ政権の最優先課題はインフレ抑制にありました。フェルナンデス前大統領は「インフレの要因は多面的」としていたのとは対照的に、ミレイ大統領は「インフレの根本要因は財政赤字である」として、徹底した財政収支の改善に取り組みます。政権発足とともに省庁の数を 18 から 8 に減らし、公務員の数も約 11%削減します。優先順位の低い公共事業の停止や各州への裁量的移転の縮小にも取り組み、就任翌月から早速、月間の財政収支が黒字に転じます。2024 年の通算では、歳出が前年比で実質 27%減、歳入は 5%減となった結果、2008 年以来の財政黒字を達成しました。他方で、貧困層支援の観点から、児童手当や食料補助は実質ベースで増やしています。従来はこうした社会支援が様々な中間団体を経由して行われていたため非効率なものとなっていましたが、ミレイ政権はそうした中間団体を徹底的に排除して、真に必要とする人に直接届くように支援を行っているとしています。加えて、価格抑制措置や為替レートの固定によって歪められた相対価格の是正にも取り組みます。政権発足と同時にペソを 50%以上切り下げて実勢水準にあったものとし、各種価格抑制措置も廃止。エネルギー補助金の見直しや水道光熱費・交通機関などの公共料金の引き上げも段階的に実施していきました。政権発足直後の 2023 年 12 月 20 日に、366 条からなる大型の必要緊急大統領令を発表します。主だったものとして、不動産取引・観光・衛星インターネットサービス等の規制緩和、民営化に向けた国営企業の株式会社化、オープンスカイ政策の導入などが定められていました。続く 12 月 27 日には、664 条からなる「アルゼンチン人の自由のための基盤及び出発点に関する法律」(以下、自由推進法)を議会に提出します。少数与党であるために議会審議が難航し、一時は取り下げられますが、税制関連の内容を別の法律として条文数を 279 まで減らした上で改めて議会に提出し、2024 年 6 月 28日に税制関連法とともに議会承認、7 月 8 日に公布に至ります。自由推進法の主な内容としては、(1)行政・経済・財政・エネルギーの分野における非常事態宣言と行政府に対する立法権付与、(2)国営企業 8 社の民営化、(3)年金モラトリアム(払込期間が短く受給資格を持たない者に対する救済措置)の廃止、(4)労働制度の近代化、(5)大型投資奨励制度(RIGI)が挙げられます。また、税制関連法では、マサ前経済相が大統領選挙期間中に行った被雇用者向けの大幅な減税措置が実質的に撤回されたほか、未申告資産申告へのインセンティブが導入されます。(RIGI と未申告資産申告のインセンティブについては後述)また、7 月に発足した国家規制撤廃・変革省も様々な改革を行っています。行政手続きのデジタル化、公務員試験の導入や縁故採用の禁止に取り組んだほか、足元では、歴代政権で恣意的に導入されたものの実質的に機能していない法令を悉皆的に改廃・整理する取り組みが進められていると報じられています。アルゼンチンは歴史的にバラマキ的な財政政策がとられ、そのツケをペソ増発という形で中央銀行に押し付けてきた訳ですが、これに加えて、余剰ペソを吸収するために中銀自身が有利子負債を発行するオペレーションも行われていました。このため、インフレ抑制のために政策金利を引き上げると、中銀の負債がますます増えて更なるペソ増発要因となってしまうため、伝ファイナンス 2025 Jul. 73(2)規制緩和(3)金融(1)財政
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