海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー のの、炭酸水やジュースはあってもミネラルウォーターは売ってなく、愕然としたこともありました。*5) グスマン氏の辞任後、内務副大臣だったバタキス氏が 3 週間ほど経済相を務めた後に、マサ氏が経済相に就任しました。*6) アルゼンチンでは、自国通貨であるペソへの信頼が極端に低いために、厳しい外貨規制が存在する中でも強い外貨需要があり、主として貿易決済に使われる公定レート以外にも、債券売買を通じて外貨を購入・売却するレート(MEP/CCL と呼ばれる)、闇市場のレート(ブルーと呼ばれる)など、様々な為替レートが存在しています。*7) この時期の私自身の体験として、体調を崩したタイミングで自宅のミネラルウォーターを切らしてしまい、□うようにして近くのスーパーに行ったも借り換えるプログラムの合意に至ります。しかし、グスマン経済相は政権内の急進的な左派勢力と対立して同年 8 月に辞任を余儀なくされます。その後*5、下院議長から経済相に就任したマサ氏は、11 月にパリクラブとの債務再編に合意し、また IMF 支援プログラムのレビューにも当初は順当に対応していきます。しかし2022 年から 2023 年にかけて発生した干ばつにより、政策を大きく転換することとなります。この干ばつは 60 年に一度と言われるほど深刻なもので、主力の輸出産業である農業部門に大打撃を与えます。200 億ドルもの損失があったとされ、IMF をはじめとする対外債務の返済に大きな懸念が生じます。外貨流出抑制のために様々な輸入・外貨規制が導入され、原材料や資本財を輸入に頼る製造業も大きな打撃を受けるとともに、輸入代金も満足に支払えない事態となります。当時は日系企業の関係者からも、この国でビジネスをやっていく見通しが立たないという声をよく耳にしました。インフレ抑制のために公定レートが一定もしくは小幅な切り下げになるように調整されていましたが、先行き不透明感から並行為替レート*6 は急落し、公定レートとのギャップが 2 倍になることもありました。この結果、公定レート切り下げを見越して売り惜しみが起こり、スーパーの商品棚にもあまり商品が並ばない事態も見られました。*7 こうした状況下で、マサ経済相自身が大統領選挙に与党連合の候補として立候補します。支持拡大のため、年金受給者・労働者に対する一時金の支給、大宗の被雇用者に対する所得税の課税免除など、バラマキ的な政策が次々と実施されました。この結果、インフレはますます加速し、2023 年は年間インフレ率が 211%、特に 12 月は月間インフレ率が 25%という、ハイパーインフレ寸前の状況となりました。このように、これまでの政権が右派と左派を行き来する中でも一向に経済的安定を達成できず、アルゼンチン国民の従来の政治勢力に対する不満は相当なものになっていました。それがアウトサイダーであるミレイ氏が支持を拡大する原動力となります。2023 年の大統領選挙は、前節で述べたように干ばつに伴う経済的な混乱のもとで実施されることとなります。この中でミレイ候補は、「ドル化」や「中央銀行廃止」といった主張に加えて、「No hay plata(カネがない)」というスローガンのもと、従来の政権が放置してきた財政再建に取り組むことを掲げます。これに対して、左派勢力である与党連合からはマサ経済相、右派寄りの野党連合からは中道勢力を支持基盤とするラレタ元ブエノスアイレス市長や、マクリ元大統領の支援を受けたブルリッチ元治安相が立候補します。当初は選挙資金も豊富で支持基盤も厚いマサ候補やラレタ候補、ブルリッチ候補が有力視され、アウトサイダーであるミレイ氏は泡沫候補と見られていました。しかし、従来の政治勢力に対する不満は想像上に大きく、ミレイ候補は選挙資金が少ないながらも、SNS を効果的に活用することでそうした不満を取り込みます。その結果、8 月 13 日に実施された予備選挙では他の候補を抑えて 1 位に躍り出ます。世の中として大きなサプライズとなりますが、ミレイ候補本人もその周辺も 1 位になるとまでは予想していなかったようです。この予備選挙の結果、大統領選挙はマサ候補、ブルリッチ候補、そしてミレイ候補の実質三つ巴で争われることとなります。ミレイ候補はブルリッチ候補の支持票の取り込みを図る一方、予備選挙で躍進して注目を集めたことで、過激な主張への風当たりも強くなります。他方マサ候補は、経済相という自身の立場を利用した選挙活動を展開するとともに、ペロン党の政治基盤も活用して支持拡大を図ります。10 月 22 日の本選挙では、こうしたマサ候補の取組みが奏功し、国政選挙と地方選挙が同時に行われた影響もあったのファイナンス 2025 Jul. 71 4 4 大統領選挙
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