ファイナンス 2025年7月号 No.716
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連載海外 ウォッチャーWAT C H EWAT C H E在アルゼンチン日本国大使館 二等書記官 山本 高大*1*1) 本稿の内容は、筆者が参考資料等も参照しながら個人的に執筆したものであり、誤りがある場合は筆者個人に責任があります。また、本稿は全て筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではありません。のかの全体像を可能な限りお伝えできればと思います。紙面の都合もあって、ミレイ大統領を語る上で重要なポイントとなる外交や宗教観についてはあまり触れることができないですが、特に経済面でアルゼンチンに関心を持たれている方に、地球の裏側の今を理解する一助になると幸いです。本稿では、まずミレイ大統領の人物像について触れ、次にアルゼンチン経済の歴史と 2023 年の大統領選挙の経過について説明します。その後、政権交代後に行われた経済政策の内容とその成果、今後の課題について説明し、最後にまとめを行います。また、コラムとして、高インフレ下での体験談、「ドル化」のロジック、アルゼンチンにおける日系人社会についても紹介します。まずは、ハビエル・ミレイという人物の生い立ちやその横顔について説明します。ミレイ氏は 1970 年、ブエノスアイレス市でイタリア系移民の子孫の家庭に生まれました。父親はバス会社の運転手・経営者でしたが、ミレイ氏自身は家庭内で暴力的な扱いを受けて育ったと語っています。こうした辛い家庭環境の中で、妹のカリーナ・ミレイが大「南米のトランプ」と報じられることも多く、実際に 68 ファイナンス 2025 Jul.(1)生い立ちO R EIGNO R EIGNFFRRハビエル・ミレイ。現在のアルゼンチンの大統領の名前を聞いてどのようなイメージを持つ方が多いでしょうか?ボルソナーロ前ブラジル大統領のようにトランプ米大統領と個人的に近い関係を築いていることから、そうした文脈で想起される方も多いでしょう。あるいは、ボサボサな髪型でチェーンソーを振り回す映像が度々とりあげられることもあるので、「何となくアブナイ感じの人」という印象を持たれている人もいるかと思います。『ファイナンス』の読者の方であれば、「ドル化」や「中央銀行廃止」といった過激な政策を主張しつつ、伝統的に財政赤字の多いアルゼンチンで自由主義的な経済政策を掲げて緊縮財政を実施したイメージを持たれるかもしれません。*1私がアルゼンチンに赴任したのは 2023 年の 7 月の終わりで、ミレイ大統領が一躍注目を浴びた大統領選挙の予備選挙が行われたのは、着任して 2 週間余りのことでした。「ドル化」や「中央銀行廃止」を掲げる大統領候補とは一体何者だということで、それ以来彼の経済政策を追いかけることとなり、幸か不幸か私のアルゼンチンでの仕事はミレイ大統領の足跡とほぼ重なるものとなりました。こうした経験を踏まえて、なぜミレイ大統領が支持を得たのか、そして今アルゼンチンで何が起きている海外ウォッチャー 1 1 はじめに 2 2 ハビエル・ミレイの人物像エコノミストが率いる南米の大国 ―アルゼンチンタンゴが意味するもの―

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