ファイナンス 2025年7月号 No.716
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0204060801001201400.00.20.40.60.81.01.21.480859095200005101520%台年自家用乗用車の世帯当たり普及台数(左軸)SC開業ラッシュSCの大型化スマートフォンの世帯保有率(右軸)インターネットを通じて注文をした世帯の割合(右軸)自動車の時代徒歩の時代へ大店法廃止路線価でひもとく街の歴史連載路線価でひもとく街の歴史 (注)乗用車普及台数は東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県を除く。インターネット注文割合は月別データを加重平均した。(出所)総務省「通信利用動向調査」(各年 8 月末)、「家計消費状況調査」(2 人以上世帯)、一般財団法人自動車検査登録情報協会「自家用乗用車の世帯当たり普及台数」(各年 3 月末)から筆者作成図 4 乗用車、インターネットの浸透状況仙台市出身、1993 年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06 年)出向等を経て2008 年から大和総研。主著に「自治体の財政診断入門」(学芸出版社)、「公民連携パークマネジメント」(同)プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦から、交通史観上の交通手段に含めた。インターネットが普及し始めたのは 90 年代後半だが、大衆化したのはスマートフォンが普及した 2010 年代だ。そしてコロナ禍を機にネット通販が全世代に広がった。戦災や震災は街の歴史を早送りする。コロナ禍も同様だ。地域経済の変化を産業別にみると情報通信業、職種別にいえば専門職・技術職のウェイトが高まった。これに伴う社会関係の変化は働き方に表れる。身近なところでは在宅・テレワークが普及した。仕事の専門性が高まったことで、個人で仕事を請け負い分業するスタイルも増えた。ネット通販は商業形態の変化でもある。日用品、買い回り品ともに目的が決まっているものはネット通販で買うことができる。自動車で郊外大型店を訪れまとめ買いをするスタイルは一段落する。こうした地域経済、社会関係の変化はどのように都市デザインに反映するだろうか。一言でいえば「ウォーカブルシティ」、歩行者中心の街である。ネット通販の時代の主要交通手段は「徒歩」だ。歴史をふりかえれば城下町にその原型を見出せる。都市デザインは徒歩と舟運の時代に回帰する。シャッター街という幕間を経て、街は再生フェーズを迎えた。その先にあるネット通販の時代の街を本稿では「城下町 2.0」と呼ぶ。城下町 2.0 とは、徒歩圏で働き・学び・楽しむ、景観と水辺を活かしたコンパクトな街である。かつて水路を埋め立てた背景には、貨物輸送路としての水路が不要になったこと、来るべき車社会への対策、そして水質汚濁があった。いまや、水路を埋め立て、道路を拡幅する積極的な理由はない。下水道の普及で水質は改善し、バイパス・高速道路の普及で街なかの通過交通は減少したからである。実際、駅前大通りの歩道を広げ、オープンテラスなどで活用する動きが全国各地で見られる。同じような動きは水路にもあり、水辺空間を憩いの場として活用する例が増えている。「住まう街」でもある。城下町は元々職住一体である。商業も工業も未分化で、今風にいえばハンドメイド製品を工房兼店舗で販売していた。住まう街の街づくりは景観が重視される。富士山をはじめ地域のシンボルとなる山が大通りの先に見えるようにするなど、庭園のような設計思想があった。商業拠点に代わりアリーナ・スタジアム、図書館などが城下町 2.0 の中心施設となる。商業は体験型店舗が中心だ。ネット通販の時代の到来でリアル店舗の意味も変わる。ネット通販では難しい試着、試し読み、ライブなど体験型店舗のニーズが増える。徒歩圏内で働き、学び、楽しむのがコンセプトだ。そして城下町 2.0 はコンパクトである。もっとも、地方都市はほどにコンパクトだ。郊外を含めても山手線の範囲に収まる。路面電車やバスが向く。バスは経路検索やキャッシュレスが進み、いずれ自動運転となろう。電動アシスト自転車でも十分に行き来できる。これまで全国の約 60 の街について、街の構造がどう変化してきたか、足下でどのような取り組みがされているかを説明してきた。ふりかえると、どの街にも起承転結のストーリーがあることがわかる。都市デザインの土台に地域経済の変化があるからだ。城下町時代から明治、大正、昭和に至る街の歴史が地層のように、同一平面上に観察できるのが街歩きの魅力でもある。それを起承転結の脈絡で読みとくことができれば、街歩きも小説を一冊読むほどの楽しみになる。ファイナンス 2025 Jul. 67

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