ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT*32) 例えば、軽課税国の子会社を親会社に、IIR 導入国の親会社を子会社にする形に資本構成を変更することで、グループとしての活動実態を大きく変えることなく容易に IIR 課税の潜脱を行うことができてしまう。ム課税の政策的な必要性については、一般に肯定できるものと考えられる。すなわち、経済のグローバル化やデジタル化の進展により、国境を越えた企業グループ内での軽課税国への利益移転は極めて容易になっており、こうした企業活動について従来の国際課税ルールの枠組みのみで対応することには限界がある。この点に、個々の企業の取引に着目するのではなく、企業グループを一体的な経済活動主体と捉えてグローバル・ミニマム課税の対象とすることには政策的な必要性があり、冒頭で述べた 2021 年 10 月の IF での国際合意は、各国のこうした現状認識が前提にあるものと理解できる。このようにグローバル・ミニマム課税が企業グループのグループとしての活動に着目した仕組みであることを突き詰めていけば、究極的には、その納税義務もグループ全体で負担することが望ましいとも考えられるが、現実の執行に当たっての納税義務の帰属先は、法的に責任財産の属する個々の法人格を持った構成会社等を基礎とせざるを得ない。こうした前提の下で、なぜ実際に軽課税国に所在する構成会社等(より端的には実効税率が基準税率を下回ることによりグローバル・ミニマム課税による課税の原因を作り出した構成会社等)ではなく、他の構成会社等が課税を受けることが許容されるのかを検討するに当たっては、その構成会社等について、課税を基礎付けるだけの帰責性が認められるのかという観点が重要と考えられる。イ IIRIIR において納税義務者となるのはそのグループの最終親会社等を始めとした資本関係の上位に位置する親会社等であり、その税額は、税額発生の原因となった所在地国にある構成会社等に対する所有持分を基礎に決定される。こうした親会社等である構成会社等は、直接・間接の所有持分の保有を通じて資本関係の下流に位置する他の構成会社等に一定の支配力を有することが想定されることから、軽課税国に所在する構成会社等に対してその支配が及んでいることをもって、グループ内の構成会社等について所在地国において生じた軽課税状態の創出への帰責性を認めることができる。ロ UTPRUTPR において納税義務者となる構成会社等は、必ずしもグループ内の親会社等に限られないから、IIRのようにグループ内で支配的な地位にあることをもって、UTPR 課税に係る帰責性を直接に基礎付けることは難しい。とはいえ、IIR のみではインバージョンを通じて容易に課税の潜脱を許すこととなりかねず*32、グローバル・ミニマム課税の目的を達する上では、IIR とは異なる仕組みによって、資本関係の下流側からも課税を確保する仕組み自体は必要というほかない。また、グループが全体として稼得した所得についてその一部が軽課税国に移転されている場合においては、本来はその稼得された国・地域で応分の課税が行われるべきである一方、現に軽課税国の構成会社等において認識されている所得について、その移転が行われた所得がもともと稼得された国・地域を特定することは、現実的には困難が伴う。こうした点を踏まえて、UTPR においては、各国の構成会社等が、その有する従業員等の数・有形資産の額に応じてIIR 課税後の税額を比例的に負担する仕組みを採用しているものと理解できる。これらは、各構成会社等の人的・物的資本であって、その構成会社等がグループの一員として生み出す事業上の利益の基盤と評価できる。そうすると、UTPR 課税を受ける構成会社等は、グループ内の親会社等の支配の下、グループの一部として事業上の利益を生み出す基盤を有し、その結果、そのグループが進出先の国・地域において軽課税の状態を生じているといえ、この点に、UTPR 課税を基礎付ける帰責性を認めることができると考えられる。このように考えるとしても、納税義務者となる構成会社等にグループ外の株主等(少数株主等)がいる場合には、当該少数株主等にとって予期しない形で投資先である構成会社等にUTPR 課税が生じる可能性がある。もっとも、これらの少数株主等にとっても、支配株主等を始めとした他の株主等が存在すること自体は関知し得るのであって、また、投資先が UTPR を始めとした各種の税制の適用を受けることについても、同様 58 ファイナンス 2025 Jul.

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