ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT グローバル・ミニマム課税の法制化についてについて負担する法人所得等に係る実効税率が、国際的に合意された最低税率より低いことを問題にして課税を行う仕組みです。既存の『各事業年度の所得に対する法人税』が、原則として単体の法人の稼得する所得に着目して課税を行う仕組みであるという理解を前提とすれば、グローバル・ミニマム課税は、法人の稼得する所得等に着目して行われる課税である点では『各事業年度の所得に対する法人税』に類似する一方、主として企業集団としての MNE グループに着目する点においては、異なる性質を持つものといえます。また、グローバル・ミニマム課税は、上記のとおり、従来の国際課税ルールの見直しの一環として国際的な最低税率の導入を目的とするものですので、その性質上、臨時的・特別的に措置する制度というより、一般的・基本的な制度ということができます。これらの観点を踏まえて、我が国におけるグローバル・ミニマム課税は、従来の法人所得税体系とは異なる新たな課税類型としての特徴を持つ国際課税上の新たな基本的ルールとして、法人税法本法において既存の法人所得税体系と並列的に措置することとされました。」グローバル・ミニマム課税においては、連結ベースでの総収入金額が 7.5 億ユーロ以上の多国籍企業グループが制度の対象とされ、制度を構成する各ルールは、いずれも、そのグループに所属する会社等の所在地国における実効税率を参照して税額を決定しつつも、実際に納税義務を負担する会社等はグループ内の他の会社等となり得ることが当然に想定されている。このようなグローバル・ミニマム課税の性質は、この制度が、法人の集団としての活動に着目する仕組みであることを示すものと評価できることから、上記解説は、こうした特徴も踏まえて、グローバル・ミニマム課税を従来の法人所得税体系とは異なる新たな課税類型として措置することが適当としたことを説明するものといえる。他方で、グローバル・ミニマム課税に関して、法人所得税とは区別して規定を設けることが適当とした場合でも、これを法人税法本法に措置するか、租税特別措置法に措置するかは別途の問題となる。この点、租税特別措置法は、法人税を始めとした所定の税目について、当分の間、その軽減・免除や還付のほか、納税義務や課税標準、税額計算等の特例を設けることについて規定するものであり(同法 1 条)、同法による租税特別措置は、「経済政策、社会政策その他の政策的理由に基づいて、租税制度に加えられた臨時的な、例外的措置」(武田昌輔「DHC コンメンタール法人税法 6」(第一法規)102 頁)と解されている。他方で、グローバル・ミニマム課税は、冒頭で述べたとおり、従来の国際課税ルールを見直す取組みとして国際的に合意され、経済のデジタル化・グローバル化に合わせて新たなルールを構築するものであることから、上記解説は、「その性質上、臨時的・特別的に措置する制度というより、一般的・基本的な制度」として法人税法本法に規定を設けることが適当である旨を説明するものと理解できる。① 問題の所在上記のとおり、IIR 及び UTPR においては、グループ内のある構成会社等の所在地国について計算された実効税率が最低税率 15%を下回る場合には、その構成会社等とは別個の、他の構成会社等である会社等について課税が生じる可能性がある。これは、具体的には、我が国を所在地国としない構成会社等について計算された税額が日本国内の内国法人等に係る納税義務として課される形で問題となる。また、QDMTT との関係でも、国内に複数の構成会社等が所在する場合に、ある構成会社等の実効税率が相対的に低廉であることなどを原因として他の構成会社等に QDMTT 税額が発生する場合には、同様の問題を生じ得る。これらは換言すれば、ある構成会社等の所得に係る課税が不十分であること(構成会社等の所在地国に係る実効税率が最低税率に満たないこと)を理由に、なぜ別人格である他の構成会社等に対して課税を行うことが許容されるのかという問題である。② 検討この点を検討する前提として、グローバル・ミニマファイナンス 2025 Jul. 57(2)我が国の法体系との関係における論点

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