ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT *1) グローバル・ミニマム課税に係る令和 7 年度改正事項のうち UTPR 及び QDMTT に係る部分の規定は、令和 8 年 4 月 1 日以降に開始する対象会計年度*2) 本稿では、各法令は以下のとおり表記しているほか、各年度の税制改正に係る改正法附則については、略記した元号を付した上で「令〇改正法附則」から適用することとされている。のように表記している。法人税法:「法法」/ 法人税法施行令:「法令」/ 法人税法施行規則:「法規」/ 地方法人税法:「地法法」本稿は、令和 7 年度税制改正によっていわゆるグローバル・ミニマム課税を構成する一連のルールの導入が完了したことを踏まえて、その国内法における各ルールの全体像とともに、その我が国の国内法体系との関係を整理することを目的としたものである(本稿の基準時は令和 7 年 4 月1日であるが、便宜上、条文を参照する際は、特に断りのない限り未施行の規定を含めた令和 7 年度改正後の法令によっている*1。)。各ルールを定める個別の規定については、財務省から公表されている各年度の「税制改正の解説」において詳細な説明が行われていることから、併せて参照されたい。以下では、①我が国でグローバル・ミニマム課税を法制化するに至った国際的な議論の経緯に触れた上で、②関連する国内法令の内容を概説し、③既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点についての見解を述べる。なお、本文中、制度の解釈や評価に係る部分については、筆者らの個人的意見に基づくものであり、所属する組織や部局の公式な見解ではないことに留意されたい*2。平成 24 年(2012 年)に OECD 租税委員会によって立ち上げられた「BEPSプロジェクト」は、公平な競争条件の確保という考え方の下、各国政府・グローバル企業の透明性を高め、BEPS(Base Erosion and Profit 直すための取組みである。プロジェクトにおいて示された15 の行動計画のうち、行動1では「電子経済の課税上の課題への対応」についての検討が行われていた。平成 27 年(2015 年)の「BEPS 最終報告書」の公表時点では、行動 1のうち、消費課税上の課題については見直しが提言された一方、法人課税における対応については合意に至らず、将来に向けて検討を継続することとされていたところ、その後の検討を経て、令和 3年(2021年)10月にOECD/G20「BEPS 包摂的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)」(以下「IF」という。)において「2 本の柱」からなる対応策が合意された。このうち、「第1の柱(Pillar 1)」は、経済のデジタル化に伴って、市場国に物理的拠点を置かずにビジネスを行う企業が増加したことで、恒久的施設(Permanent Establishment)(以下「PE」という。)の存在を前提とした従来の国際課税原則(いわゆる「PE なければ課税なし」の原則)の下では、十分な課税を実現できないという課題に対応するものである。「第 1の柱」では、多数国間条約の締結を通じて、多国籍企業がグローバルな活動によって得た所得を適正に市場国の課税権に服するよう配分する形でこの課題に応えることが目指されているが、現時点では、早期の妥結と各国による署名に向けた交渉が継続されている状況にある。他方の「第 2 の柱(Pillar 2)」は、低い税率や優遇税制を利用した外国企業の誘致が活発化すること(いわゆる「法人税引下げ競争(race to the bottom)」)により、各国の法人税収基盤が弱体化し、税制面における企業間の公平な競争条件が阻害されてきたことに対応するための取組みである。本稿のテーマであるグローバル・ミニマム課税は、この「第 2 の柱」を具体化する仕組みと位置付けられており、一定以上の規模の多国籍企業グループを制度の対象に、これらの多国Shifting)を防止するために国際課税ルール全体を見 42 ファイナンス 2025 Jul.主税局参事官室参事官補佐 大隅 怜/水野 雅/高倉 俊明/松田 泰尚1 「2 本の柱」を巡る国際的な議論グローバル・ミニマム課税の 法制化について

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