ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT 新発田龍史 審議官に聞く、金融庁の過去と現在応にリソースを割かざるを得なかったこともあり、純粋なリサーチ機能という点では必ずしも十分でなかったというご指摘についてはなかなか否定しがたいところがあります。もちろんその中で担当者は頑張ってきたと思いますが、個々人の頑張りに依存せざるを得ないという点も含めて課題があったということだと思います。経済や金融市場の動向については、今はリスク分析総括課を中心にデータ分析をやっています。かつてと比べると出向者も増えて陣容が強化されていると思います。政府部内では、金融庁は株式市場の動向を見ていることになっていますけど、やはり、債券市場や為替市場における財務省や日銀と違って、金融庁自身がマーケットにおけるプレイヤーではないということによる違いは大きいと思います。つまり、積極的に情報を取りに行く必要があるということです。服部:確かに、日銀の場合、公開市場操作の中で、実際に国債等を売買することになるため、マーケットについてはより深い知識が必要ともいえます。財務省についても国債発行だけでなく、為替なども所管しています。財務省の場合だと、主計局調査課や主税局調査課など、各局に調査課があって、官房に総合政策課があります。金融庁のリサーチの機能という観点では、リスク分析総括課の中の一部でやっているということでしょうか。新発田:そうですね。ここでまさにデータを活用した分析をやっていて、庁内でも職員の勉強成果についての発表会が頻繁に開催されるようになっていますが、リサーチについては、リソースの問題もあり、何でも自前主義で揃えようとするよりは、日銀等の関係機関と連携してどう対応するかという視点も大切だと思います。純粋なリサーチとはちょっと違うかもしれませんが、自分が銀行第一課長のときには、海外クレジット投融資の動向について日銀と合同調査を行ったこともあります。海外の先進国と比べれば、リサーチに充てられているリソースの彼我の差は歴然としているので、国内で子供のサッカーみたいに皆で一つのボールを追いかけるよりも、役割分担と連携の総合力で勝負したほうが良い領域かもしれません。あと、財務省との比較で金融庁にないのは調査課です。主計局や主税局の調査課でやっている制度調査的な機能も、課題があると個人的には思います。それは自分が昔銀行局調査課の係長や、主税局調査課の課長補佐をしたことによる単なるノスタルジーなのかもしれません。昔と違ってインターネット等で他国の制度に関する情報に容易にアクセスすることができるのも事実ですし、世の中の移り変わりが激しいこともあり、毎年のように法令改正を行っているため、各国制度について相当の蓄積があるのも事実ですが、海外制度調査の肝は、見直しの対象となっている制度以外の関連制度や改正の背景等も含め、総合的に理解することにあると思っており、その点で足腰がやや弱いように感じています。服部:私は今、金融庁の金融研究センターにも所属していますが、財務省の財務総合政策研究所(財務総研)や、日銀の金融研究所(金研)に比べると、規模は相対的に小さいという印象を持っています。新発田:金融研究センターには、専門研究員や特別研究員という形でアカデミアの方に研究プロジェクトに参画していただいていますし、自分の担当分野でも、コーポレートガバナンス改革やサステナビリティ開示の充実が企業業績にどう影響するのか等、アカデミアの知見をお借りしたいテーマが山ほどありますが、ここは今後の課題ということかもしれませんね。(なお、本インタビューは令和 7 年 3月に実施された。)(後編に続く)ファイナンス 2025 Jul. 41

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