SPOT一方で、例えば、地方でなりわいとして事業をやっているような小さな企業が上場する必要もないので、日本の金融システムが 100% マーケットベースになるわけではありません。やはり間接金融と呼ばれてきた銀行等を介在させる資金供給手段も重要であり、複線的、ある意味では二刀流の金融システムなのだと思います。市場の機能をどう発揮させるかという議論をすると、資金調達サイドからは、どんどん規制緩和をして資金調達しやすくしてほしいという要望をいただきます。その気持ちも大変よく分かりますが、その一方で、資金を供給する投資家サイドのことも考える必要があります。機関投資家は、他人からお金を託されている以上、投資によって一定のリターンを得たいけど、情報開示がされずになんだかよく分からないものに投資するわけにはいきません。そのため一定のルールは必要ですが、どこかに全てのステークホルダーが納得できる均衡点があるはずなんですよね。市場の透明性ばかり強調して膨大な情報開示を求め、本来の事業の遂行に支障を来すくらい企業の負担が多くなってしまえば誰も上場しなくなって本末転倒です。一方で、投資家の資金が結果的に詐取されるようなぼったくりマーケットだったら誰も二度とお金を出さなくなって市場が死んでしまいます。その両極端の間のどこかにある均衡点をどう突き止めていくのかというのが、結果として一番よくお金が流れる道筋を見つけることともいえ、金融庁の市場行政の中では大事な点だと思います。服部:金融機関サイドからみると、日本の金融機関は金融庁以外に、日銀からもモニタリングされています。金融庁と日銀の役割の違いはどう整理されていますか。新発田:まず、日銀によるモニタリングは「考査」と呼ばれており、日銀の金融機構局が担当しています。金融庁の検査監督と、日銀の考査の違いは、形式的には、法律によるものか、契約によるものか、ということになります。信用秩序を維持する責務を有している金融庁は、法律によって、金融機関の業務の健全かつ適切な運営を確保する観点から検査を行う権限を与えられており、いわば金融サービスの利用者の代理人として、必要であればあらゆる金融機関に対して検査を行うことができます。一方で、日銀は、「最後の貸し手」機能をはじめ、信用秩序の維持に資するための業務を適切に実施するために、日銀の当座預金に口座を保有している金融機関との間で結んでいる契約をもとに考査を行っています。したがって、たとえば日銀の決済システムとはつながっていない保険会社や信用組合は考査の対象にはなりません。そのような制度的な違いはありますが、大きな目的は共有していますので、両者は連携して対応しています。あと、国際業務でみると、例えば、日銀は BIS(国際決済銀行 , Bank for International Settlements)やFSB(金融安定理事会 , Financial Stability Board)といった国際機関との関わり合いが深いですが、金融庁は そ れ に 加 え て、IOSCO( 証 券 監 督 者 国 際 機 構 , I n t e r n a t i o n a l O r g a n i z a t i o n o f S e c u r i t i e s Commissions)、IAIS( 保 険 監 督 者 国 際 機 構 , International Association of Insurance Supervisors)といった証券、保険の国際機関とも深く関わっています。銀行・保険・証券という典型的な金融セクターを一つの監督当局がカバーしているのは、世界的にみても少なく、日本の金融庁はその代表例といえます。アメリカでは、銀行監督は、FRBと、OCC(米国通貨 監 督 庁 , O f f i c e o f t h e C o m p t r o l l e r o f t h e Currency)等の複数の監督機関に分かれており、証券は SEC(証券取引委員会)で見ていますが、保険は州ごとの監督になっています。イギリスでは、金融サービスに関する政策を担当する財務省に加え、昔は FSA(金融サービス機構 , Financial Services Authority)と FCA( 金 融 行 為 規 制 機 構 , Financial Conduct Authority)という2 つの監督当局があったのですが、現在では Bank of England の中の一部門となった PRA(健全性監督機構 , Prudential Regulation Authority)と別個独立した FCAという建付けになっています。服部:国ごとにかなり違いますね。新発田:そういう意味で、日本の金融庁の特徴の一つとして、監督する対象の範囲の広さであり、integrated regulator(一元監督当局)と呼ばれることもあります。加えて、一元的に監督しているということだけでなく、制度の企画立案、政策といった点も含め一貫して担当しているというのはどの国の当局にもないユニークさだ 38 ファイナンス 2025 Jul.日銀との役割の違い
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