SPOT 新発田龍史 審議官に聞く、金融庁の過去と現在採用されたことがニュースになっていますよね。一方、日本の時価総額上位を見てみると、1989 年と現在で大きく顔ぶれは変わっておらず、かつての公営企業も多く含まれています。この違いは何なのかと考えた時に、市場メカニズムが発揮されることを通じて、成長する企業が選ばれる仕組みが果たす役割の重要性は強調しても強調しすぎることはありません。この仕組みを私は「マクロの産業政策」と勝手に呼んでいるのですが、政策的な要請による個別産業への後押しとは別に、市場をきちんと機能させて、お金がもっと自然に、回るべきところに回るようにしていく仕組みに変えていく必要があると思っています。マクロの産業政策も含めた市場行政は、銀行監督行政にとどまらない金融庁の政策の柱の一つですし、金商法は市場行政の重要インフラとしての役割を果たしています。服部:金融庁はかつては検査や監督の機能が強かったものの、不良債権問題が 2000 年代後半になくなって、マーケット、資本市場の重要性が上がっていったことで企画市場局のようなところがでてきたという整理でしょうか。新発田:企画市場局に「市場」という言葉が入っていることにはやはり意義があって、銀行や証券のような業者行政とは性質の異なる市場行政の重要性を表しているとも言えると思います。その源流は先ほどお話ししたような行政のプライオリティの分水嶺のような局面を経験し、今後は市場行政が一つの大きな柱になるという意識があると思いますが、さらにその源流をたどると、金融ビッグバンが成し遂げようとしていた我が国金融システムの改革という「北極星」のような目標があると思います。服部:企画市場局の話が出ましたが、暗号資産も企画市場局で担当されているんですね。新発田:はい、企画市場局にある信用制度参事官室が、銀行関係の法制度を所管する一方で、フィンテックや暗号資産関係の法制度も担当しています。ただしこのあたりは変化の激しい領域ですので、制度の枠組みも内外の動向を注視しながら常にアップデートすることが求められています。服部:企画市場局については、コーポレートガバナンスなども担っていますよね。新発田:コーポレートガバナンスに関する政策は、私が分担している企業開示課が担当しています。金商法は、市場課と企業開示課が分担しています。企画市場局というとルールメイクの印象が強いですが、監督もしており、市場課では取引所を監督する一方、企業開示課では監査法人や公認会計士を監督しています。服部:市場機能というと、例えば、財務省では国債企画課や国債業務課が国債発行計画や国債発行の実務を担っており、財務省もその機能を担っているともいえますよね。新発田:そうですね。やはり「お金の流れ」という視点がすごく大事だと思っています。大蔵省も財務省も英語では Treasury ではなくて Ministry of Finance という名前ですが、そこには単なる国の金庫番ということではなく、「お金の流れ」に責任を持つという思いが込められているように思います。そこからすると、まさにパブリックセクターのファイナンスを見ているのが今の財務省の仕事で、プライベートセクターのファイナンスは金融庁の仕事になっています。だからと言って、例えば、国債管理政策をやっている人たちが、本当にメガバンクや生命保険会社の動向などを気にしなくていいのかと言うとそんなことはないし、一方、金融庁にいる人たちが、財政なんか知らないという姿勢でいいかと言うと、そんなことでは監督者として失格です。やはり金融庁にいてもパブリック・ファイナンスがどうなるのかっていうことに、無関心ではダメだと思います。日本経済が右肩上がりの時は、銀行中心の金融システムを構築し、経済成長のために重厚長大産業に傾斜的に資金を配分するという政策でしたが、その仕組みが昭和の終わりの頃に崩壊して、それを変えられなかったから不良債権問題やバブルが起きてしまったわけです。そうした経緯の中で金融庁が生まれたわけですから、我々は市場の持つ力を信じなければいけないと思います。金融商品取引法の第一条の目的規定に、「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資する」云々とあるのはそういうことの表れだと考えています。ファイナンス 2025 Jul. 37財務省の有する市場機能との違い
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