ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT 太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退について金融当局や金融機関の決済担当者でなければ、自ずと意識されづらい存在であろう。他方、本稿で見てきたように、そうした金融インフラが一旦喪失してしまえば、貿易決済、開発援助、出稼ぎ労働者の仕送りといった、地域の経済にとって重要な活動に大きな支障が生じてしまう。足下で、本問題について国際的な認知が少しずつ高まってきているが、コルレス銀行関係という一般に認知されづらい分野について、太平洋島嶼国という特定の地域に焦点を当てて、日本語でまとめている資料は限られている。本稿がこの問題の認知・理解の向上に少しでも貢献するようであれば、執筆者として望外の喜びである。金融インフラは、開発政策の世界において、道路や水道等の伝統的な基礎インフラと異なり、これまでの実績が乏しく、知見・経験の蓄積が少ない新しい分野でもある。本稿の中で、世界銀行や IMF の取組を紹介したが、それらの国際パートナーも、実態としては、プロジェクトを実施しながら、試行錯誤を通じて知見・経験を積み上げようとしている。今まで取り上げられてこなかった新しい分野であるからこそ、日本はじめパートナーの支援の重要性が高く、またレバレッジが効く分野であるとも言える。この分野は、大きな可能性も秘めている。例えば、近年、ASEAN 等では、デジタルツールを使った決済手段が国内及びクロスボーダーの送金において普及しつつある。コルレス銀行関係は、確立された銀行のネットワークに基づく伝統的な送金手段であるが、将来的な代替手段として、例えば、中央銀行デジタル通貨(CBDC:central bank digital currency)といったデジタル決済手段の活用が進んでいくことで、送金手段間で競争原理が働き、コルレス銀行関係を通じた送金コストの押し下げ、延いては企業や家計の利便性の向上に繋がる可能性もある。そうした新しい技術の動向も注視していくことが望ましいだろう。国際金融を所掌する日本財務省にとって、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図る観点からも、インド太平洋における地域金融の安定及び持続可能かつ包摂的な成長の実現は重要なミッションである。太平洋島嶼国は、経済、文化、歴史等様々な面で日本にとって身近かつ重要な存在である。太平洋を共有する隣人として、それらの国の自立的な成長を支える観点からも、引き続き地域の見えざる脅威である本問題の解決に向けて、豪州、米国といった同志国や国際パートナーと連携しながら取り組んでいくことが期待されている。ファイナンス 2025 Jul. 29

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