ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT *17) FATF は デ リ ス キ ン グ を 次 の よ う に 定 義 し て い る。” the phenomenon of financial institutions terminating or restricting business relationships with clients or categories of clients to avoid, rather than manage, risk in line with the FATF's risk-based approach”*18) Westpac “Westpac to retain its Pacific banking businesses” 4 October 2023https://www.westpac.com.au/about-westpac/media/media-releases/2023/04-October/*19) Bendigo Bank “Joint statement from Bendigo Bank and the Government of Nauru” 14 November 2023https://www.bendigobank.com.au/media-centre/joint-statement-from-bendigo-bank-and-the-government-of-nauru/太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退についてらの金融機関が、マネロン等のリスク回避や対応コストの増加の忌避等の観点から、リスクの高い顧客との取引関係を制限するもしくは打ち切る(デリスキング(de-risking))傾向が続き、グローバルにコルレス銀行関係は減少している。*17SWIFT のデータによれば、2011 年から 2022 年の間の約 10 年間で、グローバルに 30%のコルレス銀行関係が失われたと推計されている。他方、地域によって影響は異なっており、本稿で取り上げる太平洋島嶼国では、同期間に約 60%のコルレス銀行関係が失われたと推計されており、デリスキングの影響は太平洋島嶼国においてより深刻となっている。太平洋島嶼国には、政府系も含めて現地金融機関が活動している。国際的な銀行にとって、現地金融機関に対してコルレスサービスを提供しても、コルレス勘定の開設・維持に伴うコンプライアンス関連コスト、マネロン関連のリスク、リスクイベントが生じた場合のレピュテーションリスクに見合うだけの取引規模や収益を見込みづらい。その結果、これまでコルレス契約を結んでいた場合でも、ビジネス上持続可能ではないと判断されて、契約が更新されない場合がある。また、太平洋島嶼国における最近の動向として、コルレス契約の解除に加えて、国際的な銀行が、それらの国から業務自体を撤退するケースも相次いでいる。例えば、2020 年に、豪州系の Westpac 銀行が、パプア・ニューギニアとフィジーの銀行事業売却を発表した(その後、2023 年 10 月に当該国の事業の売却中止を正式に表明)。*18 また、ナウルでは、国内の唯一の銀行でもあった豪州系の Bendigo 銀行が、2023 年 11 月に、同国からの業務の撤退を正式に決定・発表した。*19その後、Bendigo 銀行は撤退時期を 2025 年 6 月まで延長したものの、本稿執筆時点(2025 年 6 月)では、同国における業務の停止は予定通り実行される見込みである(後述するが、ナウルにおける Bendigo 銀行の業 務 は、 豪 州 政 府 の 関 与 も あり、 同 じく豪 州 系 のCommonwealth 銀行に引き継がれることとなった)。コルレス銀行関係が失われると、どのような支障が生じるのだろうか。上記のとおり、コルレス銀行関係はクロスボーダー送金の経路であり、その喪失は国際的な送金のチャネルが双方向で断絶されてしまうことを意味する。太平洋島嶼国の文脈では、(1)貿易決済や対内投資の受け取り、(2)開発援助等資金の支払い及び(3)海外の出稼ぎ労働者等の仕送りへの影響、並びに(4)非公式な送金手段の利用の拡大によるマネロン等のリスクの増加が想定される。太平洋島嶼国は、土地や資源が限られるため、国内で農業や畜産を行うことが難しく、自ずと食料・エネルギーをはじめとした生活必需品のほとんどを輸入に頼る構造となっている。輸入代金の決済はクロスボーダーで行うため、コルレス銀行関係を喪失すると、貿易実務に影響が生じる。また、多くの太平洋島嶼国は経済成長を目的に海外からの直接投資(FDI:foreign direct investment)を呼び込もうとしているが、投資資金の受け入れにも支障が出る。更に、多くの太平洋島嶼国の産業構造は観光業に大きく依拠しているが、観光収入の受け取りは通常外貨で決済するため、その観点からも影響を受けることとなる。太平洋島嶼国の多くは、自国の経済が未発達であることもあり、歳入の多くを豪州やニュージーランドといった海外政府や国際機関からの ODA 等で賄って、基礎インフラの整備や必要な行政サービスの提供を行っている。それらの援助資金はコルレス銀行関係を通して払い込まれており、その喪失はインフラプロジェクトの執行の遅延や行政サービスの未達という形で、それらの国の社会経済に影響を及ぼし得る。トンガやサモアといった太平洋島嶼国は、海外労働者からの送金に経済が大きく依存しており、コルレス銀行関係の喪失は、このような小口送金にも影響を与える。送金コストも課題である。例えば、世界銀行のRemittance Prices Worldwide (RPW)によれば、2024 年の第 3 四半期時点で、200 米ドルの送金にかかるコストのグローバル平均が 6.62% であるのに対ファイナンス 2025 Jul. 23〈コルレス銀行の撤退に伴う影響〉

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