ファイナンス 2025年7月号 No.716
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SPOT *6) このような観点から、国連等の場で、ODA の基準として、一人当たり GNI ではなく、「多次元脆弱性指標(Multidimensional Vulnerability Index *7) このような太平洋島嶼国の特殊な経済構造を、MIRAB 経済と呼ぶこともある(移民(Migration)、送金(Remittance)、開発援助(Aid)、官僚制度*8) 2019 年にソロモンとキリバスが、2024 年にはナウルが中国と国交を樹立した。*9) 国際協力銀行「パプア・ニューギニア独立国 PNG LNG プロジェクトに対する資源金融供与」2011 年 12 月*10) 2018 年より、ニューカレドニアと仏領ポリネシアが PALM に正式参加した。(MVI))を導入すべきではないかという議論もある。(Bureaucracy))。https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2011/1209-6285.htmlInternational Development Association)の資金に対 GDP 比で 30%、サモアでは 20% に至る等、一国の「 太 平 洋 諸 島 フ ォ ー ラ ム(PIF:Pacific Islands Forum)」は、太平洋島嶼国 14 か国に豪州、ニューは 6 か国あった台湾承認国が足下では 3 か国(パラオ、アクセスすることができない。その結果、本稿で取り上げるコルレス銀行撤退の問題への対応に当たり、実際の開発ニーズと制度の間にギャップが生じ、日本が資金提供を行って、そのギャップを埋める役割を果たすこととなった。*6その他の特徴として、トンガやサモアといった国を中心に、自国内の産業の小ささから、米国、豪州、ニュージーランドといった外国への出稼ぎや、海外に職を求める労働者が増えており、人口・頭脳流出が大きな社会課題となっている。他方、それらの出稼ぎ労働者から母国の家族への仕送り(remittance)が経済を支えている面もあり、例えば、世界銀行の推計では、年間平均仕送り金額の対 GDP 比について、他の発展途上地域が平均で 5% であるのに対して、太平洋島嶼国は 10% と高くなっている。特に、トンガでは経済に占める役割が大きい。*7 本稿で取り上げるコルレス銀行は、まさにこうした国境を越えた送金の手段として、国全体の経済と国民生活を支えている。太平洋島嶼国は、一か国ごとの経済規模等の小ささを補う形で、地域統合・協力の動きが活発である。ジーランド、ニューカレドニア、仏領ポリネシアを加えた 16 か国・2 地域で構成される地域枠組みであり、毎年首脳会合と閣僚級会合等が開催され、太平洋島嶼国の様々な重要課題について議論が行われている。同地域は、日本、米国、豪州を結ぶシーレーンの結節点に当たり、貿易や安全保障の要衝として地政学的に重要な場所に位置している。他方、2019 年初頭にマーシャル諸島、ツバル)に減少する等、中国の存在感が増している。*8 そのような動向も踏まえて、近年、日本のみならず、米国、豪州、ニュージーランドをはじめとした同志国も、これまで以上に同地域を重要視し、その関与を強化している。日本と太平洋島嶼国は、戦前から長い関係を維持してきている。特にミクロネシア 3 国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島)との最初の交流は 19世紀に遡り、第一次世界大戦後には、約 30 年間にわたり日本の委任統治下に置かれた。1922 年には、パラオ・コロールに南洋庁が設置され、1944 年には、南洋諸島における日本人移民は 14 万人を超えた。現地には今も多くの日系人が存在している。また、パプア・ニューギニアのラバウルやソロモン諸島のガダルカナル島は第二次世界大戦において激戦地となった。戦争を通じた関係ではあるが、これらの国々では、日本及び日本人に対する感情は概ね好意的である。そのような経緯もあり、太平洋島嶼国の中には、日本との間で経済的・文化的な交流を有する親日国が多い。例えば、パラオには、ナカムラといった日本の名字が残っているほか、パラオ語の中にも「トクベツ」といった多くの日本語が受け継がれている。その他、日本の皇室とトンガ王室の間には長い交流の歴史がある。また、経済面では、太平洋島嶼国は、日本にとって、水産物・エネルギー等の資源の重要な供給地に当た る。 同 地 域 の 排 他 的 経 済 水 域(EEZ:exclusive economic zone)で漁獲されるマグロ・カツオ類の多くは日本市場向けとなっている。また、メラネシア各国は資源国であり、金、天然ガス、銅、木材等、日本の天然資源の輸入元となっている。例えば、日本のLNG 輸入総量の 5.8% はパプア・ニューギニアから輸入されており、国際協力銀行(JBIC:Japan Bank for International Cooperation)も金融面でこれを支援している。*9外交面では、日本は、1997 年より、PIF 加盟国である太平洋島嶼国、豪州、ニュージーランド等の首脳等を日本に招聘して、PALM を三年に一度開催している。*10 直近では、2024 年 7 月に、東京で第 10 回会合 20 ファイナンス 2025 Jul.〈日本との関係〉

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