SPOT国際局地域協力課 鳥羽 建/熊谷 将俊/森 健治郎/大和 崇*1*1) 執筆者の肩書は、令和 7 年 6 月 30 日現在*2) 本稿の執筆に当たっては、関係者の方々に多くのアドバイスをいただいた。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。*3) これらの14 か国に加えて、仏領ポリネシア、ニューカレドニアといった独立国家ではないが太平洋諸島フォーラム(PIF)の加盟国も存在。近年、日本と太平洋島嶼国の協力関係の重要性が高まっている。太平洋島嶼国は、その名の通り、太平洋の中心の日本、米国、豪州を結ぶ海上交通路(シーレーン)の結節点に位置している。また、それらの国は、日本にとって、水産物やエネルギーといった資源の重要な供給地であることに加えて、国際場裡でも日本を支持する重要なパートナーでもあり、日本政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:クホルダーと言える。*1日本と太平洋島嶼国は非常に密接な関係性を有している。歴史を振り返ると、例えば、ミクロネシア 3 国間では、第二次世界大戦以前の委任統治時代から経済的・文化的な交流が継続している。政府当局間においても、1997 年以来、3 年に 1 度、首脳級の「太平洋・Meeting)」を日本で開催しており、直近では、2024を開催している。日本と太平洋島嶼国の協力分野は、経済・安全保障・海洋協力・人的交流等多岐にわたる。その中でも、PALM10 において、太平洋島嶼国の首脳から、日本の協力に対する高い期待が寄せられた財務・金融分野の課題の一つが、同地域からのコルレス銀行の撤退の問題である。近年、同地域から国際的な銀行が業務撤退することにより、それらの国の政府、企業、家計が海外への送金手段を失い、国際金融市場にアクセスすることが困難となりつつある。その結果、開発援助、貿易決済、出稼ぎ労働者からの仕送り等が滞り、経済活動のみならず社会活動も含めて様々な悪影響が生じてしまう。このような金融インフラの喪失は、例えば自然災害のようにわかりやすく目に見えるものではないが、それらの国の自立性や経済発展の基盤を脅かす見えざる危機と言える。日本財務省は、太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退の問題に対して、米国、豪州といった同志国や、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)といった国際パートナーと連携しながら、様々な施策を通じて解決に向けて取り組んでいる。本稿では、当該問題が生じた背景、足下で起きている事実関係、日本が取り組んでいる支援施策等について、整理して取りまとめていきたい。なお、本稿は、当時の業務経験、作業記録、公表資料等を元にして、執筆者が個人として解釈・構成したものであり、政府や財務省の公式な見解を記すものではない。また、本稿に含まれた情報や制度の説明について間違いがありうる。そのような場合、それらは、執筆者の責に帰すことをご承知おきいただきたい。*2太平洋島嶼国は、太平洋南部に位置する、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、キリバス、ナウル、 ニ ウ エ、 マ ー シ ャ ル 諸 島、 パ ラ オ、 パ プ ア・ニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツの 14 か国で構成されている。*3 同 14 か国は、国際連合(United Nations)の小島嶼開発途Free and Open Indo-Pacific)」構想の主たるステー(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島)との島 サ ミ ッ ト(PALM:Pacific Islands Leaders 年 7 月に「第 10 回 太平洋・島サミット(PALM10)」 18 ファイナンス 2025 Jul.〈太平洋島嶼国とは〉2.太平洋島嶼国の概要1.はじめに太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退について
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