SPOT 前国際局開発機関課課長補佐 稲見 修*1(写真 1)日本開発経済学会年次総会世銀特別セッションでの園部教授挨拶(提供:世界銀行)*1) 本文中の役職は 2025 年 6 月末時点。なお、本稿は、個人的見解・意見を述べるものであり、組織としての公式見解を示すものではない。*2) 詳細は https://www.worldbank.org/ja/about/what-we-do など参照。皆 さ ん は、 世 界 銀 行( 世 銀 ) や ア ジ ア 開 発 銀 行(Asian Development Bank:ADB)など、国際開発金 融 機 関(Multilateral Development Banks:MDBs)と聞くとどういう業務を思い浮かべるでしょうか?「開発銀行」ですので、途上国が道路や空港などインフラ整備を行ったりする際に融資を行う銀行、と認識いただいている方も多いかもしれません。*1こうした融資や贈与(グラント)を通じた教育、保健、行政、インフラ、金融・民間セクター開発など開発プロジェクトの実施支援、言わば「資金支援」はMDBs の業務の柱である一方、加盟国が直面する開発課題についての分析や研究、これらに基づいた途上国への政策面での助言や知見の共有、などといった「非資金支援」も MDBs の重要な業務の一つです。これらの業務は別個のものとして実施されるというよりは、資金支援・非資金支援の様々な支援手法を組み合わせ、途上国の開発課題解決のため、個々の国を取り巻く社会経済的環境や課題に応じ最適なソリューションを提供することが出来る点が、MDBsの特徴です*2。日本政府は、MDBs の活動のあらゆる面で日本のプレゼンスの更なる向上に努めており、ナレッジ分野もその例外ではありません。日本には、「課題先進国」として防災や保健、財政管理など特にアジア・太平洋地域の途上国が直面している課題や、高齢化などこれから直面すると見込まれる課題について、豊富な知見や経験があります。こうした中、日本の学術・研究機関と MDBs のナレッジ部門との連携を強化することは、MDBs を通じた途上国の開発への貢献、日本の知見や研究の発信、そして人材育成にも繋がり得る取組と言えます。本稿では、まず MDBs の研究や分析などナレッジ業務の特徴やこれまでの日本と MDBs との協力に触れた上で、連携強化に向けた新たな取組として、世銀と日本開発経済学会との連携強化の取組について紹介したいと思います。昨今、途上国が直面する開発課題が多様化・複雑化する中、途上国からは、資金支援のみならず、知見の共有や政策対話など、資金面以外の面でも MDBs との協力をより強化したい、という声が強く寄せられており、研究や分析などナレッジ面で MDBs が果たすべき役割は一層重要になっています。しかし、MDBs による研究・分析活動は、大学をはじめとする学術・研究機関や民間シンクタンクと比べてどういう特徴があるのでしょうか。お察しの通り、MDBs の研究・分析活動は、大学をはじめとする学術的研究とは、やや性格が異なります。学術的研究は、深度ある、かつ厳格な仮説の検証、及び学説や研究手法の進化に重きを置くものである一方、MDBs による研究や分析は、政策の立案、実ファイナンス 2025 Jul. 132.MDBs のナレッジ業務の特徴1.はじめに世界銀行と日本開発経済学会との連携強化に向けた取組
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